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チェ・ゲバラの半生を映画化、ソダーバーグ監督に聞く

2009年1月11日

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写真スティーブン・ソダーバーグ監督=高波淳撮影

 南米の伝説的革命家チェ・ゲバラの半生を前後編の2部作で描いた映画「チェ」が、10日に、まず前編から公開された。監督は米国映画界で商業的な成功を収める一方、社会派作品も製作し続けるスティーブン・ソダーバーグ。今年はキューバ革命50周年に当たるが、「革命以上に、チェという人物に興味があった」と語る。

 近年のゲバラ作品といえば、南米大陸を旅した青春時代の映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」が知られるが、今回は革命家としての闘いに迫った。前編はキューバで革命を成し遂げ、国連総会で演説するまで、後編は次なる革命のためにボリビアへ移るものの、政府軍に捕まるまでを描いた。

 ただ作品からは、カリスマ性やイデオロギーを強調する意図は伝わってこない。

 「政治的に同じ考えを持っていた人はたくさんいる。けれど、ジャングルに入って、死と隣り合わせの状況に耐え、考えに賛同しない者たちと対抗できる強さを持つ人は少ない。真っすぐな力にひかれる」

 変革への意欲が強まったのは、大学生の時期にあると推測する。「医者としての教育を受けたことは影響しているだろう。人々の苦しみの原因が人工的なものなら取り除くことができるはずだ、とね」

 死後40年余りたったが、ゲバラ人気は多くの国でブランドとして定着している。「自分が信じる良い社会を実現しようとして若くして死に、見かけもかっこいいから、当然。けれど……」と続ける。

 「映画を見て、革命はロマンチックなどという幻想は抱かないようにして欲しい。リサーチの結果、全然そんなことはないと分かったから」

 制作陣は7年にわたって、関連資料を読んだり、ゲバラを知る人物に会ったりした。調査結果に忠実に、「彼を銅像にしないよう」に心がけたという。

 その過程で、ボリビアでの活動に最も関心を抱いた。「彼の物語の中で一番知らなかったのは、ボリビア。信念の強さゆえに自分を取り巻く状況が見えなくなっていくんだ」。地元住民の理解は進まず、ゲリラのメンバーは次々と殺されていく。

 ベニチオ・デル・トロ演じるゲバラの苦境が深刻さを増していく様子は、同行ドキュメンタリーを通じて追体験している感覚になる。この迫力の演技に、08年のカンヌ国際映画祭は主演男優賞を与えた。

 志半ばで倒れたゲバラだが、学ぶことはあるという。

 「物質的な豊かさだけを中心に据えた社会を続けるためには、搾取される人たちが必要になる。空虚さを感じない社会を作るには、成功とは何か、豊かさとは何かを再定義しなきゃいけない」。ただ、行動に訴える場合には、単なる反抗ではなく代案を示すことが大事、と付け加えることも忘れない。

 ハリウッドも似たような構図から格差が生まれ、対立が強まっているという。「欲の問題といえばいいのか。映画への投資などによって、じっとしていてもお金が入り続ける富裕層と、制作現場で働き、赤字を出せば問題になる人々。富の配分はもっといい割合があるはずです」(高橋昌宏)

    ◇

 前編「チェ 28歳の革命」は各地で公開中。後編「チェ 39歳 別れの手紙」は31日から。

    ◇

 チェ・ゲバラ 28年、アルゼンチン生まれ。医師資格取得後、マルクス主義を学ぶ。55年にキューバ・バチスタ政権の打倒を目指すカストロと出会い、ゲリラ戦を展開。59年の革命政権樹立後に要職につくものの、突然姿を消し、コンゴやボリビアに次の闘争の場を求める。67年、ボリビア政府軍に拘束、39歳で銃殺される。

 本名はエルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ。「チェ」はアルゼンチン人が親しみを込めて「ねぇ君」と呼びかける言葉。ゲバラの口癖だったため、あだ名になった。

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