今回は虐待の事例を紹介します。
Aさんには認知症があり、介護サービスを利用しながら息子さんと2人暮らし。Aさんが利用するデイサービスの職員が腕に強くつかまれたようなアザを見つけました。Aさんは「こけて打った」と言います。別の日には息子さんの怒鳴り声をホームヘルパーが偶然聞きました。報告を受けたAさんのケアマネジャーは虐待の可能性を考え、市役所に通報し、市の職員とAさん宅を訪問、息子さんと面談します。「Aさんの元気がないが、最近の様子は?」と質問すると、「実は……認知症が進行したのか最近排せつを失敗するようになった。そのことでイライラして怒鳴ったり乱暴に扱ったりしてしまう。怒ってはいけないとわかっているのに……」と気持ちを聞くことができました。
ケアマネジャーは、介護度やサービスの見直しを提案し「本人の状態に変化があれば、すぐに相談してほしい」と伝えました。息子さんも「独りで悩むのはダメですね」と笑顔を見せました。
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この事例では話し合いで状況改善につながりそうですが、場合によっては虐待者と高齢者とを引き離すこともあります。虐待は、特別な事情のある家庭で起きるのではなく、むしろ介護を自分たちで頑張ろうとする家族がその負担・ストレスを一身に抱え込んだ結果起きることが多いのです。専門家に相談し適切な支援・サービスを利用することで虐待状況を予防・解消していくことができます。相談窓口は、各市町村・保健所・保健センターのほか、地域包括支援センター、弁護士会、民間の相談機関などがあります。(財団法人浅香山病院医療福祉相談室精神保健福祉士、仲西宏太郎)
毎日新聞 2009年1月12日 大阪朝刊