【ミラノで藤原章生】コンピューターゲームを操る指先のかすかな動きで、その人の精神状態がわかり、飲酒運転や麻薬取り締まりに役立つ機器を、ミラノ工科大のロボット工学者が開発した。警察がディスコ帰りの若者らを対象に試したところ、その正確さは9割に達し、トリノなどイタリア北部の警察が導入を決めた。
このシステムを生んだのは、同大ロボット研究所のアルベルト・ロベッタ教授(68)。経済産業省の招きで86年以降、筑波研究学園都市の研究所でロボット工学を学んできた。
「疾病探知機」の頭文字からとった「ディーディー」という名の装置はいたって簡単。コンピューター画面上の車を、青信号の合図で走らせ、壁際で急停止させる。ジョイスティックと呼ばれるテレビゲームを操る装置を使い、この作業を親指1本で12回繰り返す。
「指の動きは大きく分けて、速さ、強さ、反応時間、震えの四つがある。その組み合わせを分析することで、その人の健康状態がわかる」とロベッタ教授は語る。まず90年代、パーキンソン病の患者の指先の震えの特徴を見いだし、新薬の効果を調べる際にこのシステムが使われた。その後、18の病院や警察、フェラーリ社などの協力で約1200人について試し、健康、精神状態で親指の動きに明らかな違いがあることを突き止めた。
「飲酒者は速さや信号への反応が鈍いが震えは少ない。薬物摂取者は一見集中力があるが速くはなく、震えが大きいといった特徴がある」
今年6月と10月にトリノ警察などが実際に、ディスコなど繁華街で数百人に試したところ、飲酒者と薬物摂取者を突き止める率は89%だった。現在までにトリノ、アオスタ、ノバラなど北部4市の警察署が、来年からの導入を決めている。教授は「化学検査より簡単でコストも安いので、全国、海外へと広めたい」と話している。
毎日新聞 2008年12月23日 東京朝刊