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【社説】ミネルバ問題にみる韓国社会の病理

 ソウル中央地方裁判所は10日、「ミネルバ」と呼ばれるハンドルネームで経済関連の記事や主張をネット上に公開してきた30歳の無職男性、パク・デソン容疑者の逮捕状を出した。「虚偽の事実を流布させ、外国為替市場や国家の信頼に傷をつけた」という容疑を認めたものだ。ある人物が個人的に主張し、流布させた内容が社会的にも大きな混乱と被害をもたらした場合には、これらを「表現の自由」として許容するわけにはいかず、またネットが聖域になるのを許すこともできないということだ。

 今回このミネルバ問題を大きくしたのは、一部のネットユーザーに彼を「経済大統領」とまで呼ばしめる韓国社会の病理だ。この病理現象は「ミネルバ=パク・デソン容疑者」の逮捕後もとどまるところを知らず、パク容疑者を逮捕した検察への非難や、逮捕状を出した判事に対する個人攻撃にまで至っている。ミネルバが活躍していたダウムの掲示板「アゴラ」には、この判事の経歴やこれまで審査を行った令状なども公開され、この内容は別のサイトにも広まっている。「アゴラ」に公開された内容によるとこの判事は、かつて大手日刊紙の広告主を脅迫したネットユーザーや盧建平(ノ・ゴンピョン)氏らに対しては逮捕状を出した一方で、ソウル市教育長選挙問題で孔貞沢(コン・ジョンテク)教育長に資金を提供したとされる人物、大統領選挙当時に李明博(イ・ミョンバク)候補後援会の関係者だった人物らに対しては逮捕状を棄却したという。つまり権力者や既得権者だけに寛大であるかのような印象操作を行っているのだ。しかし実際にこの判事は権力に抗した人物の逮捕状を無条件に出しているわけではない。この判事は国家保安法違反容疑が掛けられた延世大学の呉世徹(オ・セチョル)名誉教授、横領容疑がかけられた環境財団の崔冽(チェ・ヨル)理事長らに対する逮捕状も棄却しているが、ネットではこれらの事実はおそらく意図的に公開されていない。すなわち「アゴラ」ではこの判事を、「保守的な人物にだけ寛大な人物」であるかのように悪賢く主張しているのだ。掲示板には「次期法務部長官候補」というあざけりや侮辱の書き込みが数百件も掲載されている。

 これと同じ手法はキャンドル集会が行われていた昨年7月にも見られた。当時「集会途中に女子大生が死亡した」という虚偽の事実を広めた人物が逮捕されたが、それから1カ月が過ぎてもネットユーザーたちは、「問題の女子大生が警察に首を絞められた現場の目撃者を探している」という新聞広告を出した。自分たちに都合の悪い事実関係は決して認めようとせず、逆に「歪曲(わいきょく)」「操作」などと決めつけていたのだ。ネットでは今回逮捕された人物についても、「本当のミネルバではなく偽者」と決めつけ、警察がネットを弾圧するために作り上げた「虚偽の人物」という話まで広まっている。これこそが、韓国社会全体の精神状態がまさに重症ということを物語っている。

 政界ではミネルバ問題について、昨年5月から6月にかけて起こった狂牛病(牛海綿状脳症〈BSE〉)問題当時と同じ反応を与野党が示している。与党は逮捕に至った経緯について理路整然と説明することができず、野党は何とかしてミネルバ逮捕の問題点を強調しようとばかりしている。韓国社会が今回のミネルバ問題から何の教訓も得ることができず、逆にこれを政治的にどのように利用するかにばかり頭をひねらせているようでは、今後も第2、第3のミネルバがこの社会を再び混乱に陥れるのは間違いないだろう。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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