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社説 ガラパゴス脱しグローバル市場狙え 技術力を世界に拓く・下(1/12)

 日本の情報通信産業が壁に突き当たっている。ハードの技術力はあるのに、世界市場で存在感が薄くなった。携帯電話が典型だ。技術は進化しているが、日本でしか利用されないものが多く、世界のニーズをつかめない。特殊な生態系を保つ南米沖の諸島になぞらえ、「ガラパゴス現象」と呼ばれている。持てる技術を世界に広める努力が、国際競争力の再強化には不可欠だ。

孤島のような日本市場

 昨年末、フィンランドの携帯電話機メーカー、ノキアの対日戦略の転換が話題を呼んだ。日本市場でのシェアを10%に高める方針を撤回、発表済み製品の発売も取りやめた。今後は高額機種の販売に力点を置くというが、きわめて特殊な日本の市場にさじを投げた格好だ。

 世界の携帯電話機市場でノキアは4割近いシェアを握る。ところが日本でのシェアは微々たるものだ。日本の市場は国内メーカーがほぼ独占している。逆に世界市場では、ノキアのほか韓国のサムスン電子、米モトローラなどが大きなシェアを持ち、日本メーカーのシェアは全社合わせても10%にも満たない。

 同じような現象はほかにもある。カーナビゲーション機器で日本企業は世界で約7割のシェアを持つが、ほとんどは日米の自動車メーカーへの商品供給だ。消費者が自ら選択する後付けの普及品市場では、日本勢のシェアは5%にも届かない。パソコンでも、日本メーカーの世界市場でのシェアは縮小している。

 ガラパゴス現象の発端は、1980年代後半から進んだ円高にあった。輸出の採算悪化に伴って国内販売に力を入れ始めた各社は、製品の高機能化をどんどん進めた。さらに自前技術への固執も重なって、高い開発コストが定着してしまった。

 携帯電話ではNTTドコモやKDDIなど大手通信会社が端末の仕様を決め、定期的に買い上げたため、依存体質ができてしまった。日本独自の技術や規格、独特の販売制度にメーカーが頼る図式だ。

 国内市場の成長が続いている間はそれでもよかったが、バブル経済が崩壊し、90年代後半からインターネットが普及すると、情報通信産業をめぐるビジネス環境は激変した。日本企業はVTRやファクス、複写機などアナログ商品では強かったのに、インターネット時代に入りデジタル商品が主流になると、急速に競争力を失った。

 いま携帯音楽プレーヤーでは、米アップルの「iPod」が強い競争力を誇る。この分野はもともとソニーなど精密加工技術が得意な日本企業の独壇場だった。ところがアップルはインターネットを活用した視聴スタイルを提案。プレーヤーという単品商売でなく、サービスに高めることに成功した。

 日本企業の垂直統合型のモノづくりは、改良や擦り合わせなどの“職人芸”に頼りがちだ。アナログ商品の開発ならそれでもよかった。ところが、デジタル商品ではソフトの開発力がものをいい、部分最適より全体のシステムが重要になる。

 情報通信技術はさらに次の段階へ向かいつつある。ソフトをパッケージではなくサービスとして提供する「SaaS(サース)」や、情報システムを電気やガスのようにインターネットで提供する「クラウドコンピューティング」の台頭だ。携帯情報端末や小型パソコンが売れ始めたのも、この流れに沿った動きだ。

欧州との連携も視野に

 残念ながら、次の段階への移行でも主役は米企業だ。アマゾン・ドット・コムやグーグルがクラウド技術で先行し、携帯端末でもアップルの「iフォーン」に続き、グーグルが無償基本ソフトの「アンドロイド」を提供する。米企業は低コストの開発環境づくりで覇権獲得を狙う。

 そうした中で日本企業が活路を見いだすためには、ガラパゴスから脱し、グローバルに通用する新技術を自ら積極的に打ち出す必要がある。米国の技術を追いかけるだけでなく欧州やアジアとの連携も重要だ。

 昨年末、ノキアがグーグルに対抗し、携帯向け基盤ソフト「NoTA(ノタ)」の無償提供を発表した。これには「iモード」にも採用された日本生まれの基本ソフト「トロン」が使われている。介護用ネットロボットの開発でも日本とスウェーデンとの間で技術協力が始まった。

 通信分野では光技術を日本は得意とする。NTTはそれをもとにインターネットの安全性を高めた「次世代ネットワーク(NGN)」の整備を始めた。だがNGNの導入が国内だけにとどまると、通信基盤のガラパゴス化を再び招きかねない。通信分野に限らず、日本の技術の採用を外国にも働きかけることが急務だ。

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