バラク・オバマ氏が変更する米国の政策は山ほどあるだろう。重要な割にあまり気づかれていないが、核兵器政策もそのひとつになってほしい。
「大統領として私はいうだろう。核兵器のない世界を米国は追求する、と」。オバマ氏はすでに07年10月、そう述べ、世界の究極的な核兵器廃絶を目標に掲げると約束している。
冷戦が終わり国際テロが脅威となったいま、米国には核兵器について二つの対立する考え方がある。02年の核配備見直し報告でブッシュ政権は、核兵器の役割を広げ、新型核兵器の開発に取り組み、通常兵器と区別する壁を低くした。持っていても使えない兵器から使える兵器への転換と受け止められた。
一方で、テロリストが核兵器を入手する最悪の事態を防ぐために、地球上の核兵器を全廃すべきだ、との考えも広がった。領土や国民を持たないテロ組織に核抑止力は効果がない、と元国務長官のキッシンジャー氏やシュルツ氏らが提案した。オバマ氏のこれまでの発言は、ブッシュ路線を変更し非核世界をめざす流れに乗っている。
核廃絶に向け、いくつか提案したい。
(1)新型核兵器を開発しない(2)核実験全面禁止条約(CTBT)の早期批准を議会に求める(3)核拡散防止条約(NPT)が核保有国に課す核軍縮義務を守る(4)核を持たない国に対し核攻撃を行わないと約束する(5)大幅な核弾頭削減を単独で始める。
(1)から(3)は過去のオバマ発言にすでに含まれている。(4)は米政府が以前約束した。(5)は米専門家も提唱している。いずれも今年中に実現可能だし来年のNPT再検討会議を前進させる。
まず広島・長崎を米大統領として初訪問し、核廃絶のゴールに向けて先頭に立つと宣言してはどうだろう。
ジャーナリストの松尾文夫さんは、米大統領が被爆地へ行き、日本の首相がハワイ真珠湾を訪ねる相互訪問を訴えている。花を手向け死者をともに追悼し、歴史和解へのけじめをつけるためだという。
米国では原爆投下正当論が主流であり、日本とは核兵器のとらえ方がまったく違う。互いに正面から触れないタブー扱いだ。だが、多数の住民を無差別に殺す核兵器の使用は不正であり誤っている、という認識は米国人も持てると私は思う。
被爆者と会って原爆の惨状をオバマ大統領が知り「繰り返してはならない」と決意する。過去の和解から未来に向け、非核という人類の理想へ一歩を踏み出す機会にできないだろうか。
毎日新聞 2009年1月12日 東京朝刊