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2009年1月12日

◎新成人へ ふるさとの良さに気づいて

 石川県が新成人向けに作成した人権啓発リーフレットに、本紙朝刊で「うめめ日記」を 連載している写真家、梅佳代さんがこんなメッセージを寄せた。

 「わざわざ人を嫌いにならなかったら楽しいよ。好きというポジティブパワーを大切に 」

 この言葉は梅さんがよく口にする写真の原点でもある。難しい表現論や技術論を超えた 単純明快さがいい。ふるさとのありふれた日常の風景からハッとするような瞬間をすくい取り、それらの作品が見る者を温かく包み込み、幸せな気分にさせるのも、心の中に「好き」という確かなフィルターがセットされているからだろう。

 きょうは「成人の日」。晴れて大人になった新成人も地域と向き合い、ふるさとの魅力 や可能性をどんどん見つけてほしい。新たな発見で「好き」という思いが深まり、そうした「気づき」の積み重ねによって地域への愛着、誇りも高まっていくだろう。

 能登町(旧柳田村)出身の梅さんは高校卒業後、大阪に出て写真の専門学校に入った。 本人の言葉を借りれば「何もない柳田村から早く出たかったから」。故郷を離れ、それまで当たり前だった家族との関係や、何気ない日常に潜むおもしろさに気づいた。見慣れた祖父の横顔も、よく見れば「なんでこんなに耳がでかいんだろう」と好奇心の対象となる。

 「成人の日」は大人としての自覚を新たにし、社会の一員として認められるだけでなく 、地域との関係を深める機会となる。内向き志向で自分のことしか考えず、地域の身近な出来事や変化にも無関心では公の意識も育たない。ふるさとを知ろうとする努力は、自分がさまざまな人たちとのつながりの中で生きているという当たり前のことを再認識するきっかけにもなるはずである。

 「心をどんどんどんどん開いていくのが大人です。否定をしていてもつまらないだけで す」。梅さんが新成人に伝えたいのは肯定することの大切さである。あきらめムードや閉塞感も漂う時代だからこそ、新成人にはふるさとの可能性や底力を信じ、それを引き出す一翼をぜひ担ってほしい。

◎対北朝鮮交渉 「核全廃」へ意思統一を

 オバマ次期米政権の外交政策に影響力を持つ元北朝鮮政策調整官が、北朝鮮の核問題に ついて、核施設の無能力化だけでなく、核兵器を全廃しなければならないと強調した。米国の政権交代で米朝協議と六カ国協議は仕切り直しとなるが、オバマ次期大統領は北朝鮮の核完全廃棄をめざす米国の原則的立場を明示し、あらためて関係国と意思統一を図ってもらいたい。

 北朝鮮は党機関紙などの新年社説で、従来の反米色を消して米国との対話を重視する一 方、経済協力に慎重な李明博韓国政権を厳しく非難した。日本については無視して語らずの姿勢であり、日米韓を分断する意図もうかがわせる。麻生太郎首相は十二日に李大統領と会談するが、経済だけでなく対北朝鮮政策で結束を強化し、金正日総書記の病気に伴う権力構造の変化も想定して情報交換を一層密にしてもらいたい。

 ブッシュ政権の融和路線が続いた場合、最も懸念されるのは、核施設の無能力化や核拡 散防止に至ったとしても、開発された核兵器がうやむやにされ、北朝鮮が「核兵器保有国」として事実上認知される事態である。核兵器やウラン濃縮を検証対象に含むのかどうか、米朝協議であいまいさを許した米側の甘さや焦りをみると、その不安は募るばかりである。

 米統合軍司令部が昨年まとめた報告書は、中国、インド、パキスタンと並んで北朝鮮を アジアの核兵器保有国と記述し、北朝鮮を喜ばせた。米政府は公式には北朝鮮を核兵器保有国と認定しておらず、報告書は修正するというが、米政府内の空気の一端を図らずも示しているのではないか。

 米側がかつて求めた「不可逆的な核廃棄」といった強い文言はいつの間にか消え、北朝 鮮の核完全廃棄に向けた確固とした意思がブッシュ政権から伝わってこなくなったのが気がかりだ。オバマ次期大統領には、今後の六カ国協議で核兵器を含む厳格な核検証を実現し、完全廃棄をめざす意思を明確にするよう求めたい。そのことで対北朝鮮交渉が後退するとしても、恐れないでもらいたい。


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