ふっと肩の力が抜けた時や開き直った時、人は大きなハードルを越えることがある。大相撲で十両昇進を果たした真庭市出身の琴国に部屋で話を聞き、そんな思いを強くした。
恵まれた体格で将来を嘱望された。しかし、けいこ場では力を発揮するものの、本番では弱さが出た。勝ちたい思いばかりで足が出ない。勝ったと思った相撲も負けた。
琴国のもろさを「自分に似ていた」と佐渡ケ嶽親方は話す。大きな体で知られた元関脇琴ノ若だ。ついでに顔も似ていて、付き人をしていた琴国と一緒に歩いていると、よく兄弟に間違われたという。
琴国の転機は、三十歳を区切りに昨年一年間で十両に上がれなかったら相撲をやめると割り切ったこと。さらに昨年十月に地元真庭市で巡業が行われて熱烈な声援を受けたこともあり、精神的に変化が生まれたようだ。
肩の荷が下りたようにリラックスし、相手の動きもよく見えた。引退をかけたラストチャンスである先の九州場所で幕下優勝し、初土俵から十五年という史上二番目のスロー出世で十両に上がった。
きょう初場所で、晴れの土俵に立つ。「脂が乗ったマグロのよう」と親方は語り、数場所うちでの幕内入りを期待する。苦節を経た琴国のさらなる挑戦は、われわれに勇気を与えてくれるだろう。