ロシアがウクライナのパイプラインを経由して欧州向けに送る天然ガスの輸出が年明けから全面停止している。ガスを供給するロシアと消費国ウクライナの価格紛争が原因である。
ガス消費の多くをロシアなどからの輸入に頼っている欧州では、厳冬期に入り、経済活動や市民生活に影響が出ている。無関係な国を巻き込んでの強引な方法は認められるものではない。双方に自制を求めたい。
備蓄の少ない中欧や東欧の諸国は深刻だ。セルビアなどでは住宅用ガス暖房が止まり、一部の病院や学校も閉鎖を余儀なくされた。ブルガリアやスロバキアでは家庭用を優先して供給し、各種工場の操業停止や縮小が相次いでいる。ハンガリーでは日本の自動車産業の子会社が操業を停止した。
ウクライナがガスの供給停止を警告されるまで巨額の代金を支払わなかったことが紛争の発端だ。年末の価格交渉で、ロシアが延滞金支払いやガス価格四割値上げを求め、安い価格を要求するウクライナと折り合うことができなかった。
供給を止めた理由としてロシアは「ウクライナが欧州向けパイプラインからガスを盗んだ」などと非難し、ウクライナはロシアが一方的に止めたのが原因と反論している。欧州連合(EU)が実態調査に乗り出しているところだ。
背景には旧ソ連の一員だったウクライナと大国化を目指すロシアとの確執が指摘されている。北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指し、昨年のグルジア紛争でも欧米寄りの姿勢を続けるウクライナに対し、ロシアが資源外交で揺さぶりをかけているとの見方だ。以前にも価格問題がこじれガス供給を止め、欧州に影響が及び問題となったこともあった。
ロシアは天然ガスでは世界第一位の生産を誇り、埋蔵量では世界の約30%を占める。豊富な資源をてこに成長を続けてきた。しかし、こうした紛争が繰り返されるようでは、安心して天然ガスを購入できない。ロシアは資源国として供給に責任があることを自覚すべきだ。
今回の紛争は、ロシアに頼る欧州連合のエネルギー安全保障のもろさも露呈させた。エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている日本にとっても貴重な教訓となった。ロシア・サハリン沖で採掘された天然ガスの日本への輸入が今年から始まる。一国に依存することなくエネルギー資源の多様化を進めることが重要となろう。
第三セクター・井原鉄道(井原市)が運営し、総社市と福山市神辺町を結ぶ井原線が、きょう開業十周年を迎えた。沿線の主要駅などでは多彩な記念イベントが繰り広げられ、「マイレール」の節目を祝う。
井原線の歴史は紆余(うよ)曲折をたどった。一九五一年に沿線自治体が「岡山福山間国鉄吉備線延長期成同盟会」を結成、六六年に着工されたが、国鉄再建に伴う予算凍結で工事は中断となった。その後、岡山、広島両県や関係自治体が第三セクターを設立して工事を再開、九九年一月十一日に開業にこぎつけた。
待ちに待った鉄道誕生に、地域活性化への期待が高まった。しかし、利用者は年平均百十万人と当初予測の半分程度で推移、赤字経営が続いている。井原鉄道では経営改善に向け、「新たな視点で経費節減と増収に努めたい」とする。
明るい材料は、沿線人口が減少する中で健闘していることと、通勤利用者の増加傾向だという。利便性を高めて地域住民の一層の利用を促すことが求められる。同時に、観光客など沿線外からの利用者をいかに増やせるかが問われている。
全線の大半が高架という眺望の良さに加え、歴史、童謡、伝説、美術館、地場産業など井原線には多彩な持ち味がある。組み合わせを工夫して物語性を演出し、井原線ならではの世界を外に売り込み好奇心を刺激する。これに企画列車や朝市、伝統行事といったイベントや食などを絡めれば魅力が増そう。
地域住民や利用者とのつながり、支援の輪の広がりなど井原線がこれまでに築いてきた財産は多い。開業十周年を機に、その蓄積をバネにより多くの人々から愛され活用される鉄道を目指し、二十歳、三十歳と大きく育ってもらいたい。
(2009年1月11日掲載)