◎厳しさ増す雇用 農林漁業への「転職」支援を
不況で多くの派遣労働者などが職を失う一方で、北陸の農林漁業は慢性的な人手不足が
続いている。このミスマッチを解消し、安定した働き口を提供するために、北陸の自治体が業界団体の協力を得て、農林漁業への「転職」を後押しできないか。
農林水産省は新年度から就農希望者に最大で月九万七千円の研修費を十二カ月間助成す
る雇用事業を開始する。福岡県はこの事業をにらんで、解雇された人を対象に就農希望者の登録制度を発足させ、今月から農林漁業への就業セミナーを開催するという。
再就職先が見つからず、困っている人のなかには、農林漁業に関心を持つ人もいるだろ
う。人手不足の農業法人などに紹介し、給料を得ながら腰を据えて農業技術を学ぶ仕組みを考えてほしい。
石川県は昨年度から就農支援インターンシップ事業を展開し、県外の人を対象に、能登
地区の農業法人で稲作や野菜栽培などを体験をしてもらい、就農を促す試みを始めている。昨年は県外出身者二人が就農したが、希望者そのものが少なく、研修参加者は十人にも満たない。解雇や雇い止めで、多くの失業者が出ている今こそ、息長く続けられる農業への「転職」をアピールしたい。
石川県には一昨年一月時点で、百四十八、富山県には二百二の農業法人があり、珠洲市
や穴水町などでは、建設業から農業への進出を目指す企業も増えている。働き手の高齢化が進むなか、後継者の育成は急務である。農業経験がない人でも農業法人への就職ならノウハウを一から学べる利点がある。
石川県は失業者の一時的な受け皿として、年度内に九十三人の臨時職員を雇用し、民間
委託事業でも同じく六十三人を雇用する。臨時雇用者のなかで、農林漁業に関心のある人は農業法人などで働いてもらってはどうだろう。
漁業についても人手不足は深刻だ。現在、研修費の二分の一以上を自治体が負担する漁
業研修制度を利用し、石川県内で百二十人のインドネシア人が働きながら漁業を学んでいる。こうした制度をヒントにして、漁業へ「転職」を働きかける方法も考えてほしい。
◎財政黒字化目標 増税頼みでは説得力ない
政府は二〇一一年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する目標につ
いて達成が困難であることを認めた。景気悪化で税収の激減が避けられず、雇用対策などで財政出動を迫られる状況ではやむを得ないだろう。理解しがたいのは、それでもなお目標を撤回せず、「努力目標」として維持しようとすることだ。麻生太郎首相がこだわる三年後の消費税率引き上げへの足がかりを残す意図があるとすればまったく意味がない。
内閣府が昨年十二月の経済財政諮問会議で示した試算では、税制の中期プログラムに沿
い、消費税率の引き上げを二〇一一年度から開始し、景気が順調に回復した場合でも、基礎的財政収支が黒字化するのは一〇年代後半になるとしている。政府は今月中旬、この試算も参考に「経済財政の中長期方針と十年展望」と題した新たな方針を閣議決定するが、実現困難な増税頼みの目標なら説得力を持ち得ないだろう。
基礎的財政収支を二〇一一年度に黒字化する政府目標は「骨太の方針2006」に盛り
込まれ、財政再建の象徴とされてきた。与謝野馨経済財政担当相はこの目標を残す理由について「財政健全化を目指す精神」と表現する一方、「日本経済の将来展望が開けないと新たな旗(目標)は立てられない」とも述べた。この言葉通り、景気の先行きが見通せない中で新たな中長期の道筋を描くのは極めて難しい。いくつかのパターンを想定するのはよいとしても、それが消費税率引き上げに持ちこむためのシナリオであるなら論外である。
黒字化目標へのこだわりは、衆院選へ向け、政府、与党として将来に責任を果たす姿勢
を訴え、財政出動に対する野党のばらまき批判をかわす思惑もあるのだろうが、目先の財政収支のバランスだけにとらわれ過ぎては機動的な財政運営は難しくなる。
無駄な歳出の徹底的な削減や公務員制度改革、国会議員定数削減など検討すべき課題は
山積している。増税の前に、それらの道筋こそ確実なものにしていかねばならない。