生保裁判連ニュース 第17号(抄)
2002年4月発行
1,第8回生活保護裁判連・総会and交流会in金沢の御案内
<とき>2002年9月1日(日)
<会場>石川県文教会館(金沢市尾山町10−5)
生保裁判連の今年度の総会は、高訴訟が提起された北陸・金沢で開催します。
昨年9月の広島総会以降、保護申請権裁判控訴審や宋訴訟上告審での不当判決がありましたが(申請権裁判は上告中)、児童扶養手当3裁判での最高裁での勝訴や、大阪・佐藤生活保護訴訟(ホームレス訴訟)一審勝訴などの貴重な前進がありました。また、中島学資保険裁判の最高裁判決もいつ出てもおかしくない情勢にあります。生活保護裁判や社会保障裁判にとって今年はまさしく正念場です。生活保護制度や行政のあり方や審査請求の状況、裁判の進め方などを交流し、権利としての生活保護、社会保障を確立するために、おおいに語り合いましょう。
2,各争訟の到達
T 佐藤生保訴訟勝利報告!
弁護士 小久保哲朗
三月二十二日、野宿からの居宅保護を求めた、佐藤訴訟の判決が大阪地方裁判所であり、勝訴判決を勝ち取ることができました。
実働六人の弁護士が四年近くにわたり渾身の力を込めて取り組んで来た裁判でしたが、苦労が報われた思いです。
ご支援頂いた皆様方に感謝申し上げます。
なかなかに踏み込んだ良い判決であり、各地の福祉事務所との交渉の中でも「使える」と思われるカ所をご紹介します。
是非、支援者の皆さん方にこの判決を「使って」頂きたいと思います。1)野宿者に対する保護開始時に考慮すべき事情
判決は、主たる争点について、「現に住居を有しないとの一事をもって居宅保護を行うことができないと解すべきでない」としたうえで、「現に住居を有しない要保護者に対して保護を開始するに当っては、要保護者の身体面、精神面の状況(更生施設等における養護、補導を必要とするか、居宅における自立した生活を送ることが期待できるか)、保護の内容に関する要保護者の希望、収容保護の対象として考えられる施設の内容、居宅保護を実施する場合の住宅の確保の可能性等の諸要素を総合的に考慮して、保護の内容(居宅保護か収容保護か)を決定すべきであ」るとしました(五五ページ)。
つまり、野宿者に対しても、一律収容保護ではなく、きちんと個別の事情や希望を考慮せよ、ということです。2)野宿者に対する敷金支給の可否(→可)
また、被告側が保護開始時には原則として敷金支給はできないとしていた点についても、法がそのような限定を付していると解することはできないとしました(五四ページ)。
つまり、野宿者が保護を求めた場合に、直接敷金支給をして居宅を確保させることができる、ということです。3)要保護者が収容保護決定に従わない場合に実施機関がとるべき措置
「原告の意思を考慮して原告に対する保護の内容を再検討し、新たな保護の決定ないしは保護の変更の措置を講ずべきものであって、そのような措置を何ら講ずることなく本件収容保護決定を取り消すことは許されない」
「法六二条一項、三項及び四項は、被保護者が収容保護をする旨の決定に従う義務に違反した場合には、保護の変更、停止又は廃止をすることができるが、そのためには当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない旨を規定している。これは、法三〇条二項が被保護者の意に反して入所を強制することを禁止していることを受けて、収容保護を拒否する要保護者ないし被保護者が、意に反する収容保護を受け入れるか、さもなければ保護を受けることを断念するかという選択を強いられる事態を可能な限り避けるために、要保護者ないし被保護者に弁明の機会を与えたものであり、保護の実施機関としては、弁明の結果に基づいて要保護者ないし被保護者の実情を再度調査した上で、保護廃止が真にやむを得ないか、要保護者の実情により適合した内容の保護に変更すべきであるかを検討すべきである。したがって、収容保護決定に応じないとの一事をもって、弁明の機会を与えることもなく、いったん開始した保護を廃止することは許されないものと解される。」
つまり、野宿者が収容保護決定に従わない場合、実施機関は、その人に対して弁明の機会を与え、実情を再度調査し、保護変更の可能性を検討すべきである、ということです。4)退寮希望者に対する説明義務
「更生施設に収容されている被保護者が退寮を希望した場合において、被告相談所長は、被保護者の真意等の調査を行うにあたり、被保護者につき新たな内容の保護への保護変更の可能性があると認められるときは、保護変更申請権を保障するため、当該保護の内容につき説明する義務がある」
これも画期的な判断です。
退寮希望者を漫然と退寮させ野宿に逆戻りさせることは駄目である、居宅保護への変更の可能性がある人については、その内容を説明すべきである、ということです。
佐藤訴訟判決についての弁護団声明
二〇〇二年三月二二日
佐藤訴訟弁護団
この度、大阪地方裁判所は、野宿の状態からの居宅保護を認めなかった大阪市立更生相談所の行為を違法とする判決を言い渡した。これは、生活保護法三十条が規定する居宅保護の原則に従った当然の判決ではあるが、裁判所が、野宿生活者の人権を無視した大阪市の実務運用の実態を直視したことを高く評価したい。
わが国における野宿生活者の人数は年々増加し、現在では三万人を超えると言われている。最後のセーフティーネットであるべき生活保護法が機能せず、本件のような違法な運用がまかり通っていることが、野宿生活者を次々と生み出す原因となっている。
国や地方自治体は、今回の判決の趣旨をふまえ、今なお行われている野宿生活者に対する生活保護法の違法な運用を早急に是正しなければならない。
また、現在、各政党において、「ホームレス自立支援法案が議論されているが、単に公共施設からの排除や立退きを促進するための法律であれば、根本解決には至らない。「ホームレス支援法」が制定されるのであれば、野宿生活者の人権回復や主体性を尊重したものでなければならない。
残念ながら、わが国の社会には、「野宿生活者は怠け者であり、好きでやっている変わり者である」との偏見が強く残っている。本日の判決が、そめような偏見を除去するための第一歩となることを期待したい。
大阪市は、全国で最も多い野宿生活者を抱え、わが国における矛盾が象徴的に顕れている都市である。このような矛盾を解消するためには、行政として市民、野宿生活者やその支援者らと連携して前向きな取り組みを進めることが必要不可欠であり、控訴を断念するよう強く申し入れたが、大阪市は、不当にも控訴した。 以 上
U 札幌生活保護訴訟の現状と課題
「支援する会」事務局長 三浦誠一
一、訴訟に至る経過
(1)一九九八年二月、原告(三六才)は離婚に伴って、生活保護を受給しました。札幌市白石区菊水地域に住む、長女・七才、次女・四才、長男・三才の母子四人家族です(年齢は二〇〇一年当時)。
原告の次女は小児喘息で、入退院を繰り返す生活です。当時住んでいた住居は、昼間でも電灯が必要な程、陽の当たらないところなので次女のために転居を希望していました。(2)一九九八年八月、白石区菊水地域に住居を見つけることができましたが、家賃が住宅扶助基準(四万二千円―当時)を上回る五万八千円だったので、あきらめていました。しかし、担当ケースワーカーと不動産業者から「役所に出す書類が住宅扶助基準内で整っていれば大丈夫」といわれ、そうしてもらい、一九九八年九月に転居できました。
(3)一九九八年一二月、新しく担当になったケースワーカーから家賃オーバーを指摘され実額の家賃証明を提出する等の措置を取りました。一九九九年八月、白石区福祉事務所長は原告に、法第七十八条による不正受給になるので、転居時に支払った費用(敷金・仲介手数料・引越代、合計一三万八三九〇円)を返還する様に伝えてきました。
(4)一九九九年一〇月、原告は、北海道生活と健康を守る会連合会の役員を代理人として、札幌市長に費用徴収の取り消しを求めて審査請求を行いました。二〇〇〇年一〇月、札幌市長は、審査請求の提訴期間(六〇日)が経過しているという理由で、内容を吟味することなく却下してきました。原告は、この決定を不服として、二〇〇一年一月、札幌地方裁判所に費用徴収決定の取り消しを求めて提訴しました。代理人はさっぽろ法律事務所の猪狩康代弁護士です(後に竹下法律事務所の竹下義樹弁護士が加わる)。
二、原告は断じて「不正受給」ではない
(1)白石区福祉事務所長は、原告が家賃申告を偽ったことを、不正受給であると主張しています。不正受給とは、収入や資産があるのに、隠して申告しないとか、あるいは過少に申告して不当な利得を得る等の意図的な不正行為のことです。
原告の場合は、白石区福祉事務所長に提出する家賃証明を実額の五万八千円ではなく、住宅扶助基準の四万二千円(当時)と申告しましたが、これらの支給されたお金は全額、家主・不動産業者・引越業者に支払ってしまい、一円の利得もありません。これは果たして、不正受給なのでしょうか。
このような場合は、他のいくつかの福祉事務所では、支給された金額が、本来の目的に使用されたことを考慮して、費用返還ではなく、安い家賃の住居への転居を指導することで対処するということです。こうしたやり方の方が、生活保護法の目的(生活保障と自立の助長)に合致するやり方でしょう。白石区福祉事務所長のやり方は、全く生活保護の基本を考慮しない、愚劣なやり方です。(2)生活保護では、住宅扶助基準を超過している住居に住むことはできます。住宅扶助基準(四二〇〇〇円―当時)以内なら、一定の条件の下では敷金もでます。引っ越し代は、福祉事務所が承認するなら、支給されます。しかし、原告は、全くそうしたことを知りませんでした。ですから、担当ケースワーカーや不動産業者からすすめられなかったとしたら、家賃証明を実額でないものを提出することはありませんでした。しかも、原告は、家賃証明を実額ではないものを提出したとしても、住宅扶助基準との差額・一万六千円は自分で支払うのだから、何の問題もない・単に書類上の問題と思っていました。一体、これのどこが不正受給なのでしょうか。
(3)原告が転居を望んだのには、理由があります。次女の小児喘息の療養にとって、陽当たりの良い住居が何よりも必要であることは常識です。原告は、そのことを念願していましたし、担当ケースワーカーも同じような経験をしていたようで、強く転居を進めてくれたのです。転居の必要性と緊急性は明快です。担当ケースワーカーの転居の助言も適切と言えます。
以上、これは、不正受給として弾劾されるべき事例ではありません。勝利をめざして、「支援する会」を発足させて奮闘中です。ご支援、ご援助をお願い致します。
V 中嶋学資保険訴訟の早期勝利確定を
学資保険裁判を支援する会 事務局 杉本美江
学資保険裁判も最高裁に上告されて、丸三年が過ぎました。訴訟がはじまって一〇年がたちます。一日も早く判決が出て欲しいものです。
高校入試を控えた子どもを抱えた生活保護家庭の夫妻が、我が子のためにたくわえた「学資保険の保険金」を取り上げると言う理不尽な生活保護制度に異議をとなえて始まったこの裁判も、当事者である入口(中嶋)明子さんは、もう一児の母規になっています。判決が出るまであまりにも時間がかかる日本の裁判のあり方に大いに疑間を感じます。
「学資保険裁判を支援する会」も一日も早く判決をかちとりたいと粘り強く運動を続けてきました。この問「支援する会」として一一月、一二月そして今年になっては三月に最高裁要請行動をおこなっています。国民の支持と世論を起こすために取り組んできた「だれもが安心して高校進学ができるよう学資保険の保有を認めた生活保護・福岡高裁判決の確定を求める要請書」についての個人署名は二十三万三千二百七十七名、団体署名は三千五百十一団体に到達しました。
一二月は全生連の「二〇〇二年度予算要求中央行動」とあわせてのとりくみで、最高裁門前で早朝宣伝(マイクでの訴えとビラまき)をおこなうなど、積極的に取り組みを展開しました。最高裁の門前ビラをまいた日の裁判所での懇談には、担当官は私たちのまいたビラを持参して出席するなど、運動を良く見ているようでした。しかし担当官は私たちの話は丁寧に聞くものの、審理状況などはまったく語らず、「みなさんからの要請内容は裁判官にお伝えします」と言うことに終始し態度は丁重ですが審理状況などまったく知らせられません。最高裁の壁は大変厚く、学資保険裁判をめぐって何が間題とされ、何を検討しているのかまったく見えない状況です。
国民の知る権利の保障がとりざたされ、情報公開がすすんでいるなかで、最高裁だけ別世界に生きているようなシステムに戸惑いを感じます。
「支援する会」として裁判官の心に私たちの思いや願い、生活保護世帯の子どもたちの実態を知らせたい、知って欲しい、切実な願いを伝えようと支援する会としても必死のとりくみをしてきました。この裁判を有利に進めるためには、社会的な支侍をひろげるとともに、生活保護世帯の実態や子どもの教育の実態を裁判官に知ってもらうことがきわめて重要です。
数回にわたって全生連が中心となって、「生活保護実態実例」を集め裁判官に提出するなどの収り組みもおこなってきました。
いま新たに「支援する会」は裁判官に国民の声を届けようと、特別要請署名に取り組んでいます。この特別要請署名は生活保護世帯にかかわる福祉関係者や子どもの教育問題にかかわる方々にそれぞれの立場から、福岡高裁の判決を支持してもらうとともに、それぞれの立場から発言をしてもらい、関係者がどんな思いで子どもたちや保護家庭を見つめ、関わっているかを知らせようと取り組んだものです。
現在七〇通ほどの特別要請署名が集まっています。そこには「社会で自立してゆくためには高校を出ることでやっと就職が可能になるということではないでしょうか、子どもたちの人生を明るくする福祉をねがっている」「生浩保護世帯やこれに準ずる状況の方々は大変苦労しています。福岡高裁の判決を確定してほしい」「高校進学の費用は多額であり、学資保険の保有はどうしても必要だ」「子どもの教育は、その子の生涯の生き方に関わることであり、社会の発展にもかかわる重要なことです」「保護行政の現場では、中学生のいる世帯には、子どもの将来のために高校進学をすすめ、親にも蓄えを指導している。しかしながら学資保険を収人認定するのは違法ではないか」「民生委員をしています。担当地域に小学生や中学生がいる生活保護世帯があります。この子どもたちが安心して高校に進学できるよう願っています」などの声が寄せられています。
判決がいつ出されるのか、学資保険裁判は予告なしの判決がだされるケースです。現在最高裁第三小法廷の開廷日には状況を見ながら、傍聴をしたりしています。福岡高裁の判決が確定されれば、どれだけ多くの人が救われ、子どもたちも希望を持って生きることができるようになります。支援する会としても最後までがんばって行きたいと決意しています。
3,社会保障裁判支援連絡会からのお知らせ
社会保障裁判支援連絡会は、2002年1月25日に最高裁判所に社会保障裁判の公正判決を求める要望書を提出し、要請行動を行いました。
1月25日時点では、社会保障関係の訴訟として最高裁判所に係属していたのは、生活保護に関しては中嶋訴訟・高訴訟・岸訴訟、児童扶養手当に関しては広島・奈良・京都からの訴訟、国民健康保険に関しては杉尾訴訟です。
社会保障裁判支援連絡会は上記いずれの訴訟も、社会保障の重要事例であると位置づけ、公正な判断を最高裁判所が下すことを要望しました。
そして、児童扶養手当に関しては、3つの裁判に原告が勝訴しました。
また、5月25日には「いのちとくらしに憲法を」第2回シンポジウムが以下の内容で開催されます。
「いのちとくらしに憲法を」第2回シンポジウム
テーマ
21世紀の社会保障・社会福祉
―― すべての人に権利・尊厳・安心を ――
日時:5月25日(土)13時30分から6時30分
場所:飯田橋シニアワーク地下ホール
内容:記念講演「裁判がつくる日本の福祉」竹下義樹
「ノーマライゼーションと社会保障裁判」矢島里絵
各地の社会保障裁判報告
国連・第2回世界高齢化問題総会報告(井上英夫)
その他