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社説:視点・オバマ時代 経済再生 尊敬される資本主義目指せ=論説委員・福本容子

 米国の時代は終わった。アメリカ型資本主義は失敗した--。昨秋のリーマン・ブラザーズ破綻(はたん)以降、金融危機に打ち砕かれ信頼を失う米経済に、世界のあちらこちらから、そんな論評が飛んだ。

 しかし今、世界はその米経済を一人の男が立て直してくれることをひたすら期待しながら、注目しているように見える。

 20日、バラク・オバマ氏が第44代米大統領に就任する。新政権への期待は、もちろん経済再建に関するものばかりではない。しかしオバマ氏が、どんな経済政策を実行し、米国がいつ、どのように復活するのかが、米国民のみならず世界の最大の関心事であることは確かだろう。

 待ち受けるのは、困難ばかりである。雇用情勢をはじめ、米経済は今後、一層厳しさを増しそうだ。超大型の景気対策を打ち出す構えだが、財政赤字の急膨張が早くも心配されている。迅速な景気対策実施のため協力が欠かせない議会はすでに、要求や批判の風圧を強めている。

 オバマ氏は、短期的な優先政策と長期的に目指す経済像を同時に示し、忍耐強く国民と議会の説得を続けねばならない。まずは雇用対策や州政府の支援が重要だが、金融偏重の経済成長、借金依存の消費など構造的な問題をいかに正し、新しい発展のけん引役をどこに見いだすのかも、明確にする必要がある。

 時間との勝負であり、市場との勝負だ。財政赤字が急膨張しても、その先に魅力的な再生の姿がとらえられれば、ドルの暴落や長期金利の急騰といった市場の大混乱を避けることもできるのではないか。

 米経済への信用は大きく揺らいだ。失敗の要因は、資本主義や市場経済そのものというより、それをうまく機能させるうえで不可欠な責任や正直さが置き去りにされたところにある。人が傲慢(ごうまん)になり過ぎた。新しいルールと監視体制を築き、金融が社会を食い物にするような暴挙の再発を許さない意思と仕組みを内外に示す必要がある。

 新しいものを生み出す力とそれを取り入れる柔軟さ。才能を公正に評価し、弱い者には支援の手を差し伸べる社会。スピーディーに変化を遂げるダイナミズム。本来米国が誇った強みや尊んだ価値を大切にしながら、進化した魅力ある経済のモデルをもう一度、目指してほしい。

 日本も、ただ期待しながら傍観するだけではいけない。政府も企業も、オバマ新政権とその米国に多くを提案し、自らも理想のモデルを追求しながら、競い合う時代をスタートさせる時である。

毎日新聞 2009年1月11日 東京朝刊

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