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金融の目詰まりが、企業の資金繰りを圧迫している。根本的な理由は、銀行部門が全体として自己資本の不足に陥っていることにある。
銀行の融資総額は、自己資本の厚みによって規制されている。銀行経営を健全に保つためである。不足するようになった原因は三つある。
まず、自己資本が大きく目減りしている。保有している取引先の株式が株価の暴落で評価損を抱えたり、不況で貸し倒れが増えて償却負担が膨らんだりしたためだ。
次に、自己資本規制の制度は融資先を格付けし、低ランクの融資ほど自己資本を厚くするよう求めている。景気が悪化するとランクが下がる融資先が増え、自己資本が一層必要になってくる。そこで銀行は低ランクの企業から融資を引き揚げ、安全な企業に貸そうとするようになる。
加えて、世界的な金融危機でコマーシャルペーパー(CP)や社債を発行しにくくなり、超一流企業までが銀行借り入れに殺到している。融資需要が急増したため、さらに多くの自己資本が必要になっている。
メガバンクなどは自力で自己資本の充実を進めているが、とても十分とは言えない水準にある。
こうしたことの結果、中小零細企業がはじき出されている。これらの企業を主な融資先とするのは地域金融機関だが、これまで取引のなかった優良企業が金融危機で融資を申し込んできて、資金をそちらの方へ回している面がある。しかし、長く取引をしてきた企業にもきちんと目を向けるべきだ。
そのためには、自己資本の増強が急務となる。地域金融機関は自己資本不足がとくに激しいからだ。
政府は昨年暮れに、改正金融機能強化法を成立させた。金融機能を維持し、中小企業などの取引先を守るため、必要となる自己資本を政府が提供する制度である。ところが、申請する金融機関がさっぱり出てこない。
「経営が苦しいと見られるのではないか」「中小企業への融資を義務づけられるのではないか。経営が縛られるのは困る」と尻込みしているようなのだ。特に地方銀行などは互いに横をにらんだ総すくみの状態といっていい。
現在の景気は時間を空費していられる状態ではない。先日は自民党の小委員会で、政府が強制的に資本注入できる仕組みを求める声があがった。金融機関が自ら動かなければ、このような声はさらに強まるだろう。
妙な強制論が台頭する前に、金融機関が自主的に決断することが望ましい。顧客基盤を守り、自らの経営も守るのは、金融機関の経営者の責任である。総すくみから抜け出せないなら、地方銀行協会などの業界団体が音頭を取るのも一法ではないか。
ロシアとウクライナの天然ガス紛争が再燃した。価格交渉が決裂してロシアがパイプラインを閉めたためだが、ウクライナ経由で欧州に送るガスまで止まり、余波が広がっている。
欧州連合(EU)諸国は、ガス需要の4分の1をロシアからの輸入に頼っている。そのうち8割がウクライナ経由だ。両国にEUが加わって事態打開のための協議が始まったが、難航が続いている。今冬は寒さが厳しく、紛争が長引けば人々の暮らしや経済活動にも深刻な影響が出そうだ。
ロシアとウクライナのガスをめぐる対立は06年の1月にも起きて、オーストリアなど欧州側のガス供給が大幅に減ったことがある。
91年のソ連崩壊で、独立したウクライナがロシアからガスを買わなければならなくなったことが、問題の根本にある。旧ソ連以来の特恵的なガス価格を段階的に国際価格に引き上げていく合意はあるものの、ウクライナの経済発展が追いつかず、価格交渉がもつれる原因になっている。
04年暮れの「オレンジ革命」で、ウクライナに親西側の政権が誕生し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟路線を進めたことで、状況はさらに複雑になった。3年前の紛争では、ロシアがガス供給を武器にウクライナに圧力をかけたと、欧州側は不信をつのらせた。
今回は、世界的な金融危機でウクライナ経済が大打撃を受け、さらに支払いが難しくなった事情もあるようだ。
しかし、ロシアの強引な交渉のやり方は相変わらずだ。千立方メートル当たり180ドルだったガスを今年から250ドルに引き上げると通告した。それをウクライナが拒否すると、要求を一気に450ドルにまで引き上げた。
一方で、同じ旧ソ連国でもロシアと軍事協力機構を作るベラルーシやアルメニアとは、価格交渉がまとまっていないのに供給を続けている。相手によって対応を変えるロシアに、需要国側が疑念を抱き、憤るのは当然だろう。
エネルギー価格の高騰で急成長したロシア経済は、このところの原油価格の急落で苦境に陥っている。ロシアは天然ガスの高値を維持するため、石油輸出国機構のような国際的な生産カルテルを組織できないかと動いている。それがウクライナとの価格交渉で強気を崩せない背景にもあると見られる。
だが、こんな騒動を繰り返していては、ロシアはエネルギー供給国としての信用を失うばかりだ。そのマイナスをもっと重く受け止める必要がある。
ロシア、ウクライナ両国とも「ガスを盗んだ」「盗んでいない」といった低次元の論争は早く卒業し、冷静な経済交渉で決着させる節度を持つべきだ。最大の需要国である欧州も、本質的な解決に向けて動くべきだ。