春闘の季節を迎える。急激な景気悪化で非正規労働者らの大幅削減が相次ぐ中、連合は雇用も賃上げも求める。これに対し、経営側は正社員の雇用も危ういとけん制するなど激しい攻防が予想される。
今春闘を取り巻く環境は、労使ともに厳しい逆風といえよう。米国発の金融危機は世界的に急速な景気の冷え込みをもたらし、日本でも大企業を中心に予想を上回るスピードで業績が悪化している。
景気失速で最も深刻化しているのは雇用問題である。こうした中、連合は八年ぶりにベースアップの要求を掲げ、雇用を守り賃上げの実現も目指す。物価上昇による賃金の目減りを取り戻すのが狙いだ。さらに賃金まで抑え込んだら、景気回復はいつになるか分からないとベアの必要性を強調する。
確かに輸出主導型の日本経済にとって、個人消費拡大などによる内需拡大で景気回復を図るという筋書きは理解できる。だが、「こんな雇用不安が強まる時期に賃上げ要求とは」という批判的な声も少なくない。
特に解雇された非正規労働者らの間では、こうした思いが強いだろう。連合傘下には大勢の派遣社員などを活用する大企業の労組が多い。非正規労働者が雇用の調整弁に使われ、結果的に正社員が守られている側面は否定できない。
非正規労働者の不安定な雇用問題にどう向き合うのか。労働者の最大組織である連合に突き付けられた課題は、これまでにも増して大きいと言わざるを得ない。
経営側の日本経団連は、昨年末に今春闘に向けた交渉指針をまとめている。その中で賃上げ抑制の姿勢に加え、雇用の安定について原案にあった「最優先」の表現を後退させて「努力目標」とした。
派遣社員らの大量削減に対する世論の批判を受け、最近は雇用重視の方向に転じているが、雇用不安は重大な社会問題との認識をもっと強めるべきだ。
大規模な雇用打ち切りを決めた大手企業の中には、膨大な内部留保のある会社も多い。業績が悪化し始めた途端、大量解雇を打ち出す対応は安易すぎるのではないか。
労使ともに最優先すべきは雇用の安定だろう。労働時間を短縮して仕事を分け合い、雇用を維持するワークシェアリングの是非論も活発化するなど、議論の余地は十分ある。双方が一丸となり、雇用安定に向け最善の策を導き出してもらいたい。
政府の経済財政諮問会議は、二〇一一年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する政府目標の達成は困難との認識で一致した。財政健全化が怪しくなった。
世界的な金融危機によって税収の急激な落ち込みが避けられないためで、決定した経済財政の基本方針「経済財政の中長期方針と十年展望」の原案では、財政黒字化の政府目標について「遅れをできる限り短くする」と明記し、早期の黒字化を求めている。基本方針は今月中旬に閣議決定される見通しだ。
政府としては、黒字化目標の先送りであり、断念ではないということだろう。与謝野馨経済財政担当相は「財政健全化を目指す精神」として目標は残すと語る。また「日本経済の将来展望が開けないと新たな旗(目標)は立てられない」とも述べている。これでは、財政健全化は形骸(けいがい)化したも同然ではないか。
内閣府が昨年十二月二十六日の諮問会議に示した試算では、消費税率を引き上げ、しかも景気が順調に回復しても基礎的財政収支が黒字化するのは一〇年代後半になるとしている。見通しは厳しい。しかし、財政健全化を死守しようとしない限り、歳出削減努力がおざなりになり、財政規律が緩んでしまう恐れが強まろう。景気が悪化し、財政出動圧力が高まっているだけになおさらだ。
基礎的財政収支の一一年度黒字化は、小泉政権から続く財政健全化路線の象徴だった。諮問会議は、省庁や族議員の抵抗を排して大胆な財政運営方針を打ち出し、官邸主導による改革のエンジン役を担ってきた。無駄を徹底的に省き、税収増を図る歳出歳入一体改革は十分ではない。新たな黒字化達成目標も掲げられない諮問会議では、存在意義が問われよう。
(2009年1月9日掲載)