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時評コラム

ニュース解説

医療崩壊 〜医師不足を切り口に〜(2)

医療行為に集中できない医師

 頻繁に引用されるOECDの調査データによると、諸外国に比べ日本の医師数が少ないことはここ1年ほどで少しずつ知られるようになった。住民1000人当たりの医師数は日本が2.0人であるのに比べ、OECD諸国平均は3.0人、アメリカ2.7人、フランス3.3人であり、ギリシャは4.5人である。看護師などのコメディカル(医師以外の医療従事者)の数も少ないことを合わせれば、欧米に比べ4分の1のマンパワーで医療を行っているともいわれる。

 日本の医療現場ではコメディカルの数が少ないため、直接の診療行為以外に膨大な数の書類の作成や、患者の搬送、夜間などの時間外には患者から採血したサンプルを検査室に持っていく、簡易レントゲンを緊急でとるなどの業務まで若手医師が担っている。ただでさえ少ない医師が、多くの業務を行わざるを得ないため、「忙しすぎて診療している時間がない」のが現状なのだ。

 我々が見学に訪れた地域の中核病院でも、36時間連続勤務が常態化していた。36時間連続勤務とは、例えば月曜日朝に出勤し、通常の勤務を行う。そのまま夕方から当直業務に突入し、次々に来る救急患者の対応のため、ほぼ寝られずに朝まで働く。そしてそのまま火曜日の通常業務に入り、夜まで働くというものだ。

 ある若手医師はこう語る。

 「一週間に1、2回はそうした当直がある。10日に1日休めるかどうか」

 別の女性医師はまた次のように語る。

 「一晩中寝ないで救急患者の対応をすると、翌日には頭が朦朧(もうろう)としている。ミスをしないかいつも心配している」

 一晩中寝ずに当直業務に従事した翌朝の医師の判断力は、飲酒時と同程度にまで落ちるとも言われている。飲酒時の医師の診療を受けたいと思う患者はいないだろう。当直明けの医師の診療を受けるというのは、飲酒時と同じ判断力の医師に自分の命を預けることになり得ると考えると、過酷な勤務体制は決して医師だけの問題ではない。

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