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2009年1月10日

◎並行在来線 「高い買い物」しないために

 青森県が、二〇一〇年十二月の東北新幹線新青森開業に伴ってJRから経営分離される 並行在来線の鉄道資産を約八十億円で買い取ることを決めた。金額をめぐっては、JR側が当初、簿価の約百六十億円を提示したのに対し、同県は「無償か低廉な価格」を主張。一年に及ぶ交渉の末に双方が歩み寄った格好である。ただ、経営分離後の収支は極めて厳しいと見込まれていることから、地元ではこれでも「県が高い買い物をさせられた」とみる向きがあるようだ。

 一四年度の北陸新幹線金沢開業を控えている石川、富山県にとっても、これは人ごとで はない。鉄道資産については、両県もできれば無償で取得したいという意向を持っているが、JRとの交渉が一筋縄ではいかないことは、青森県の例を見ても察しがつく。後手に回らないために、両県に新潟、長野も加えた沿線四県が足並みをそろえてものを言う体制を早く整える必要があろう。

 並行在来線については、昨年十一月に谷本正憲、石井隆一両知事が懇談した際にも話題 になり、沿線四県とJR、さらに国も交えた協議の場を設けてJRに第三セクター経営に必要なデータの早期開示などを求めていくことで一致した経緯がある。まず、この「協議の場」を可能な限り早く具体化するよう求めたい。本格的な交渉が始まる前にも、折に触れて各県の意思をJRに伝える機会を設けることが大切である。

 北陸新幹線が長野まで開業した際、並行在来線を引き受けた三セクの「しなの鉄道」は 、JRから簿価で鉄道資産を買い取った。長野五輪の開幕を控え、満足に交渉する余裕もなかったためと言われる。その後の経営は予想以上に厳しく、結局、鉄道資産を買収するための費用として同社に百三億円を貸し付けていた長野県は、事実上の債権放棄に追い込まれた。これがなければ、同社は今も大変な赤字続きだっただろう。

 初期投資が三セク経営の行方を左右することは、石川、富山県もよく分かっているはず だ。「まだ時間がある」とは決して思わないでもらいたい。

◎赤羽医師ら解放 身代金せんさくは無益だ

 昨年九月、エチオピア東部で誘拐され、隣国ソマリアに連行、監禁されていた非政府組 織(NGO)「世界の医療団」のメンバーである赤羽桂子医師とオランダ人男性看護師が犯人グループから三カ月半ぶりに解放された。二人とも無事だとの知らせに安堵(あんど)する。赤羽医師は富山医科薬科大(現・富山大)の卒業生だから、より身近にそう思う。ただ、この事件でも日本政府が否定しているのに、犯人側が多額の身代金を受け取ったと口外したことから、身代金をめぐるせんさくもなされているが、そうした探りは無益であり、ときには有害であり控えねばならない。

 政府が否定しても、支払ったようだとの推測が独り歩きし、さらなる誘拐を招く懸念が あるからだ。仮に支払ったとしても認めるわけにいかない問題だ。イランの武装集団に誘拐され、解放された日本人大学生に関して昨年末、政府が多額の解決金をイラン側に支払ったと政府関係者が明らかにしたことがニュースになったが、日本人誘拐は金になると、武装勢力をそそのかしかねない話だった。後日のために内部的には透明にしておくべきだが、メディアに漏らすには工夫が足りなかった。

 近年、医療に限らず海外のNGOなどで活動する日本人が増え、事件に巻き込まれるこ とも増えている。昨年八月、NGO「ペシャワール会」の伊藤和也さんがアフガニスタンで武装勢力によって殺害されたのを機に、政府はNGOを対象に危機管理セミナーを開催したが、危険地域への渡航を法律で禁じることは憲法の渡航の自由に抵触するとの立場を取る日本では有効な再発防止策が見当たらないのが現状だ。

 NGOなどの人々は危険覚悟で活動している。池におぼれた子供を見て、泳げなくても 助けに飛び込む行為と似ている。危険な場合はNGOなどが自らの判断で救いの手を断念することもやむを得ないが、こうした人たちを窮地へ陥れてはならないのだ。危険を国際社会に知らせて無法者を孤立させ、NGOなどの活動を助ける連帯こそ必要なのだ。


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