2009年1月10日(土) 東奥日報 社説



■ 医師確保すべはないのか/疲弊する地域医療

 本県の地域医療が依然として医師不足にあえいでいる。西海岸地方の拠点病院である鯵ケ沢鯵ヶ沢,鰺ヶ沢,鰺ケ沢町立中央病院もその一つだ。

 同病院は昨年一月から三人いた常勤内科医が二人に減少。さらに減る恐れがあり、地域の医療が崩壊する危機にひんしていた。このため町は国の「緊急臨時的医師派遣システム」を申請した。拠点病院を存続させるための窮余の策だった。

 このシステムは、六カ月間の期限付きで、国が日本赤十字社などから医師を派遣するものだ。鯵ケ沢中央病院はこれに基づき、昨年七月から名古屋、長崎、福岡、岡山などの日本赤十字社の六病院から延べ二十人の内科医の派遣を受けた。

 だが、新たな常勤医を確保するめどが立たないまま内科医の派遣は昨年十二月いっぱいで終了した。

 この間、町や病院側も黙っていたわけではない。新たな常勤医確保を目指して奔走した。県や弘前大学に協力を要請する一方、町出身の医師が地元に戻って勤務できないか、家族らにも持ちかけたという。しかし、医師確保はかなわなかった。

 今月からは県立中央病院が月四回、非常勤内科医を交代で派遣することになった。とはいえ、とりあえず一年間の期限付きだ。地域医療は将来に不安を残したままになっている。

 どうすれば地方に医師を集めることができるのか。すべはないのか。鯵ケ沢に限らず、県内の自治体病院関係者は、この重い命題と向き合い、解決策を見いだそうとしてきたが、妙薬は見つかっていない。

 本県の医師不足はもはや県、大学、病院、自治体だけでは解決できない水域にきている。国がそれぞれの地域の実情を把握し、必要な医師数を配置できるような施策を率先して進めるべきではないか。そのためには、まず医師の偏在化の解消が必要だ。

 「医師は余る」としてきた国も、深刻な医師不足に直面し、医師数抑制策を撤回した。これに伴い、新年度から医学部の定員が大幅に増え、弘前大学も増員される。

 減るより増えるにこしたことはない。関係者も歓迎している。だが一方で、西北五地方の自治体の幹部は、「定員増は喜ばしいことだが、指導する教員はどこから持ってくるのか。もし、地元の病院の医師が大学に戻されるなら、医師不足がさらに深刻になる」と危惧(きぐ)する。

 また、定員増がすぐに医師不足解消につながるわけではない。学生が医師として戦力になるには十年かかる。しかも、医師として本県に定着するかどうか分からず、不透明な要素もはらんでいる。

 鯵ケ沢中央病院は、西北五圏域の自治体病院機能再編計画で、サテライト(後方支援)病院として存続することが決まっている。しかし、慢性的な医師不足が続く中、機能再編が完了するまで病院が持つのかどうか不安視する声があるのも事実だ。

 地域、特に過疎地にあって病院は住民の命を守る最後のとりでだ。「病院がなくなったら、私たちは何を頼ればいいのか」。住民の悲痛な声に国は真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。


HOME