おびただしい死者が出ているガザ情勢の収拾へ、国連安保理が動き始めた。イスラエルとハマス(イスラム原理主義組織)に即時停戦を求め、イスラエル軍の完全撤退にも言及した決議案が14カ国の賛成で採択された。米国が最終的に棄権したのは残念だが、とりあえず決議採択を重要な一歩として歓迎したい。
とはいえ、見通しは明るくない。イスラエルのオルメルト首相は即時停戦決議の受け入れを拒み、軍事作戦を続ける構えだ。ハマスのロケット弾攻撃も簡単にやみそうにない。国際社会は停戦実現へ、あらゆるチャンネルを使って双方を説得しなければならない。
パレスチナ人の死者は800人に迫った。ガザでは医療関係者が市民多数の「虐殺」を証言する。国連機関の車をイスラエル軍戦車が砲撃する事件も起きたという。一連の信じがたい出来事によりイスラエルは国際的信用を失っている。過剰な武器使用をやめるよう重ねて自制を求めたい。
英国が提出した決議案は、パレスチナ自治区ガザからのイスラエル軍全面撤退につながる「即時、持続的で十分に尊重される停戦」を呼びかけ、ガザで医薬品や食糧などの人道支援物資の完全な配給が実現することを求めた。
また、市民に対する暴力を非難する一方、加盟国にガザへの武器、弾薬の密輸を防ぐ取り組みを求め、パレスチナ内部の和解への措置にも期待した。ガザを実効支配するハマスとアッバス・パレスチナ自治政府議長が率いるファタハの歩み寄りを促す文言だろう。
それにしても米国の棄権は気がかりだ。ライス米国務長官は決議への支持を表明している。米国が棄権したのは、停戦への具体的措置をめぐる紛争当事者とエジプトの協議の結果を見定めたかっただけだという。
しかし、米国は決議案の文言をめぐって英仏と協議を重ね、賛成することが見込まれていた。ライス長官とブッシュ大統領の電話の後で米国が棄権を選択したのは、同盟国イスラエルへの配慮との見方が強い。
米議会では、ハマスに対するイスラエルの戦闘を支持する空気が強い。20日に退任するブッシュ大統領は、特にイスラエルへの支持が厚い米大統領といわれただけに、議会の動きもにらんで棄権を決断したのだろうか。
しかし、イスラエルを説得できるのは実質的に米国だけだ。中東の緊張緩和はイスラエルにとっても重要である。退任まで10日ほどある。ブッシュ大統領はエジプトやサウジアラビアなどの親米アラブ諸国や欧州諸国などと協力し、パレスチナの流血を止める努力をしてほしい。
いまや国際社会の良識と人権感覚が問われている。パレスチナへの有力支援国である日本も、事態沈静化へ一役買うときである。
毎日新聞 2009年1月10日 東京朝刊