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パレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの侵攻について、国連安全保障理事会がようやく即時停戦を求める決議を採択した。
空爆開始以来、民間人を含む約800人の死者が出ている。イスラエルと、ガザを支配するイスラム過激派ハマス双方は、速やかに決議を受け入れ、流血を終わらせるべきである。
安保理の決議採択の後も、ガザではイスラエルの空爆が続き、ハマスもロケット弾を撃ち込んでいる。国際社会の圧力を横目に見ながら、双方とも相手を挑発しているとしか思えない。
停戦を実現させ、継続させるためには、決議採択でふくらんだ期待をしぼませてはならない。米欧はイスラエルの説得に全力を挙げ、アラブ諸国はハマスに働きかけてもらいたい。日本も安保理の非常任理事国として、決議の受け入れに向けて当事者に直接働きかけるべきだ。
即時停戦を呼びかけようという安保理の動きに抵抗してきた米国は、採決を棄権した。拒否権を使わない形で、米国なりに停戦を求める国際社会の大勢に従ったということだろう。
決議は停戦を暴力の一時的な停止に終わらせず、永続化させ、平和の構築につなげるよう求めている。そのためには中東和平プロセスの推進者である米国が、積極的に関与する必要がある。20日に就任するオバマ次期大統領はすぐにも事態の沈静化と和平交渉再開に向けて動くべきだ。
決議は、ハマスとアッバス議長が率いる穏健派ファタハとの和解も求めている。停戦後のガザの統治ではファタハの関与は欠かせないのだから、早く対話に乗り出してほしい。
そもそもイスラエルの生存権を認めないハマスと、ハマスを「テロ組織」と決めつけるイスラエルが直接ぶつかり合う構図になっていることが、ここまで事態を悪化させ、犠牲を増やした原因である。
イスラエルとの和平を前進させるには、パレスチナ側が統一した立場を決めなければならない。ヨルダン川西岸のファタハは和平を推進し、ガザのハマスは拒否するという分裂した対応では、混乱するばかりだ。
ファタハとハマスの和解のためには、かつて両者による連立政権づくりを仲介したサウジアラビアや、昨年後半、和解協議を仲介したエジプトが両者を招き、改めて和解のテーブルにつくよう強く働きかける必要がある。
ガザではこれまでに3200人の負傷者が出ている。イスラエルによる1年半にわたる経済封鎖で、病院には麻酔や医薬品が払底している。決議はガザ全域での人道支援の提供を要請している。日本は緊急医療チームの派遣などに積極的に加わる姿勢を示し、停戦受け入れを双方に迫るべきだ。
米国のオバマ次期大統領が経済政策について演説した。就任の10日余り前であり、極めて異例のことだ。
11月の当選以来、新政権の経済チーム選任を前倒しするなど、オバマ氏は危機への対処に積極姿勢を際立たせてきた。国民の期待も高まり、ニューヨーク市場の株価が一時9000ドルを上回った。だが、ここにきて雇用情勢のさらなる悪化が表面化し、20日に就任してから対策を打ち出すのでは遅いとの不満も出始めていた。前例のない演説は、そんな危機感に背中を押された結果でもあるようだ。
オバマ氏は、米経済の厳しい見通しを率直に語った。「行動を起こさなければ、フル操業時に比べて活動規模が1兆ドル落ち込み、失業率は2ケタへ上昇する。一家4人の家族で1万2千ドルの減収になりかねない」「景気後退は何年も長引く恐れがある」「(経済情勢は)劇的に悪化する可能性がある」――。安易な期待を今のうちに冷ましておく狙いもありそうだ。
演説では、2年間で7750億ドルにのぼる財政出動により300万人の雇用を創出する方針を確認した。財政出動は国内総生産(GDP)の5%を上回る。柱は減税と公共事業だ。
減税は、オバマ氏の持論である中間層や低所得層を対象としたものが中心。これに加え、雇用や設備投資の上積みを促すために企業減税も行う。公共事業には、道路・橋といったインフラ整備、学校など公共施設の近代化や省エネ投資、国民医療情報の電子化といったメニューが並ぶ。
米国はすでに政策総動員の構えになっている。金融システム対策で総額7千億ドルにのぼる金融救済法を用意し、金融政策では昨年暮れに事実上のゼロ金利と量的緩和に踏み切った。
財政出動の結果、09年度の財政赤字は1兆ドルを大きく突破し、最悪の水準になる見込みだ。オバマ氏は「向こう数年は1兆ドル規模の赤字が続く可能性がある」という。世界経済の底割れを防ぐためにも、まずは米国経済の底割れを何としても防がねばならない。
オバマ氏は2月上旬にも関連法案を成立させたい意向だが、政治的な環境は甘くない。減税重視の共和党に配慮して、総額の約4割を減税とした。だが、与野党双方から対策の追加や修正を求める声が噴出しており、成立が遅れる恐れもある。採決がずれ込んで株価の暴落を招いた昨秋の金融救済法の繰り返しになってはいけない。
対策をスムーズに実施しても、期待されている効果を発揮できるか未知数だ。オバマ氏が求心力を失えば、巨額の財政赤字への不安が基軸通貨ドルへの不信につながるかもしれない。剣の刃の上を行くような細くて長い道のりだ。先手先手のリーダーシップに世界の期待がかかる。