◎珠洲の塩 いしりに続く能登ブランドに
珠洲の粗塩が、ファストフード大手のロッテリア(東京)の新商品の調味料に採用され
、三月にも全国展開されるという。能登の風土と素朴な製法が生んだ品質が評価されたもので、若者に人気のファストフード商品とマッチすれば、幅広く受け入れられる可能性も高まる。同じく能登独特の調味料として、世界的に高い評価を受けている魚醤(ぎょしょう)「いしり」に続く能登ブランドの逸品として、認知度を上げていきたい。
ロッテリアでは、北海道産ジャガイモを丸ごと使って揚げた新商品につける塩を求めて
、全国の五十種類以上の塩を試し、ミネラルが豊富でまろやかな味の珠洲の塩に白羽の矢が立ったという。
珠洲市の外浦地区一帯で受け継がれている伝統の製塩技術は、昨年、「能登の揚浜(あ
げはま)式製塩の技術」として国の重要無形民俗文化財に指定された。周辺に海に注ぎ込む川が少ないことから海水の塩分濃度が高く、海水を塩田に均一にまいて、炎天下でじっくり精製する技法は、現在も生かされている。
今回の採用は、他商品との差別化が求められるファストフード業界にあって、商品開発
者の味へのこだわりが、古くからの製法にこだわり抜いた珠洲の粗塩にたどりついた結果と言える。これは同時に、埋もれた伝統食材であっても、良質な産品を作っていけば食の最前線に出る可能性があることを示し、取り組む生産者の意欲の向上にもつながるだろう。
珠洲の製塩業界としては、今回の採用を機に、県内での知名度をさらにアップしたい。
希少性の高い製法の周知も含め、地元官民挙げて、なお一層の後押しが求められる。
また珠洲の天然塩は、昨年春に米・ニューヨークで開かれた国際的な食の見本市でも「
マイルドな味」として、いしりなどと並んでバイヤーから絶賛されてもいる。塩は人間に欠かせない基礎的な栄養分であるだけに、世界のあらゆる料理を引き立てる調味料として、幅広い需要が期待できよう。
二月に金沢で世界の富裕層を呼び込む国際会議が開かれるが、そうした席で、料理の質
を高める高級塩としてアピールしたい。
◎労働者派遣の規制 拙速避け、幅広い議論を
雇用情勢が一段と悪化し、労働者派遣法の改正問題が急浮上してきた。野党からは製造
業の派遣禁止を求める声が挙がっているが、与党や経済界では景気回復時に雇用を増やせなくなるとの指摘もあり、立場によって考え方は大きな隔たりをみせている。ここは拙速を避け、企業、労働者双方の利益に配慮したバランスの取れた視点が大事である。
「非正規」が三分の一強まで増えた就業構造の変化で、低賃金や社会保障の不十分さに
ついては景気が悪化する前から問題になっていた。処遇を改善する必要はあるとしても、規制強化で雇用が急速に縮む状況は避けねばならない。その影響を慎重に見極めながら雇用形態や労働者法制のあり方を議論してほしい。
一九八六年施行の労働者派遣法は当初、通訳など専門性の高い業務に派遣を限定してい
たが、段階的に緩和され、二〇〇四年には製造業も解禁となった。雇用を拡大し、失業者を増やさない側面もあったが、不況になると真っ先に契約を打ち切られる負の部分が一気に表面化した。
社民党などは製造業への派遣を禁止する法改正を主張し、民主党も従来方針を転換して
、派遣会社に登録して仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」の禁止を改正案に盛り込む方向で検討する。一方、政府は昨年の臨時国会で日雇い派遣の原則禁止を盛り込んだ改正案を提出したが、製造業への派遣規制には触れておらず、現段階では与野党で妥協点を見いだすのは容易ではない。
景気の動向によって一定の雇用調整は避けられないが、それが短期間で一斉に行われる
と深刻な社会不安を引き起こす。想定し得ない現実を前に、政治も戸惑い、対策が後手に回っているのが実情だろう。与野党対立の迷路に陥らず、まず浮かび上がった制度の功罪を冷静に見つめる必要がある。
むろん派遣規制だけで雇用の問題が解決するわけではない。職業訓練の一層の充実や、
人手が足りない分野への人材移動など現実の課題を総合的に検討し、望ましい雇用のかたちを探っていきたい。