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書評

サブプライム化する米国の医療

『米国医療崩壊の構図』
―ジャック・モーガンを殺したのは誰か?

 本書は米国医療システムに関して論じるレジナ・ヘルツリンガー・ハーバード大学経営大学院教授の3冊目の翻訳書である。基本的には4つの章に分かれているが、2部構成で、前半が現在の米国医療サービス市場の“診断書”、後半がその病根を治療する“処方箋”となっている。

 診断書の要点はジャック・モーガンという腎臓疾患患者が、民間医療保険を持ちながらも移植が間に合わず亡くなった理由を、1つのケーススタディーとして追求し、医療保険会社、非営利大病院、雇用主企業、連邦政府とあらゆる種類の規制に関して意見する専門家集団のすべてに、応分の責任があることを解明していく。

人間の基本的尊厳がないがしろにされる米国

 著者は、米国の医療サービス業界には非営利団体を含めて強欲がはびこっているとし、それに対して激しい言葉で糾弾している。経営者の強欲、患者にとっては意味のない組織拡大志向、利益追求型の経費削減、無責任な関係者のサボタージュが、ジャック・モーガンを殺してしまった。それは米国で決して例外的なものではなく、日常化していると教授は指摘している。

 加えて、無保険者は、保険会社の保護を受けることもないことから、最も搾取しやすい対象となり、法外な医療費を請求され、取り立てられ、個人破産に追い込まれるという事実も紹介されている。

 米国の個人破産の実に27%が、医療費負担に耐えられなくなったことによるものだという。これは何かが狂っているのであり、米国は最先進国でありながら、基本的な人間の尊厳さえ守られていない事実が示されている。

 その処方箋として、著者は市場主義を導入するという視点が最重要で、これを阻害するような規制をすべて排除することだという。著者はこのプロセスを金融市場とのアナロジーで、納得しやすいよう説いている。

 本書はウォール街が自爆した2007年以前に書かれたものであり、当時の繁栄する金融市場を教授が好意的に評価したのはいたしかたない面はある。だが米国に居住する者として、著者が言うように、米国の医療サービス市場に、強欲が強烈に膨らんだ金融市場と同様の規制緩和路線を持ち込むことには、賛成できない。

ファンドが投資し始めた米国の医療現場

 確かに米国には「医療機関が直接患者にサービスを提供し、価格メカニズムが働く」部門に老人介護施設がある。だが、こうした施設にカーライル・グループ、ウォーバーグ・ピンカスなどのプライベート・エクイティ・ファンドが、投資し、運営に参入した実態を見ると、手放しで市場主義の導入に賛成できない。

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著者プロフィール

神谷 秀樹(みたに・ひでき)
ロバーツ・ミタニLLC創業者兼マネージング・ディレクター

神谷秀樹

1953年東京都生まれ。小学校時代をタイで過ごし、75年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、住友銀行入行。ブラジル・ミナス・ジェライス連邦大学留学を経て、84年ゴールドマン・サックス証券に移籍。92年に日本人では初めて米国で投資銀行の「ミタニ&カンパニー・インク」を設立、95年に「ロバーツ・ミタニLLC」に社名変更。米国在住。著書に『ニューヨーク流 たった5人の「大きな会社」』『さらば、強欲資本主義』(いずれも亜紀書房)、『強欲資本主義 ウォール街の自爆』(文春新書)がある。これまでに大阪府海外アドバイザー、フランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院客員教授などを兼務。

(写真:丸本 孝彦)

ロバーツ・ミタニLLCのサイトはこちら

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