患者の待ち時間を少しでも短く、快適に
「待合室がいつも込んでいて、何時間待たされるか見当もつかない」―。患者にとって、受付から診察までの長い待ち時間はストレスと不満のタネ。一方、医療機関側にとっても、患者からの「待ち時間」に対する質問とクレームは、頭の痛い問題だ。高齢化による医療ニーズの増加、医師不足などの要因も絡み、待ち時間を短縮するのは容易ではない。しかし、患者の満足度を少しでも向上させようと、さまざまなアイデアと着眼点から、待ち時間対策≠ノ取り組む動きが広がっている。
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全国約500の病院を対象に行った厚生労働省の2005年受療行動調査によると、診察までの待ち時間が「1時間以上」だった患者は21.7%で、待ち時間の長さについて30.7%が「不満」「やや不満」と回答している。また、規模が大きい病院ほど待ち時間も長くなる傾向がみられ、500床以上の病院では27.2%の患者が「1時間以上」、2.4%が「3時間以上」待ったことがあると回答し、待ち時間の長さについて42.1%が「不満」「やや不満」としている。
■待ち時間を喫茶店や売店で
患者に外来の待合スペースにじっと待ってもらうのではなく、建物内で自由に過ごしてもらえば待ち時間の精神的苦痛は少しでも軽減するのではないか―。1210床の大病院で、建物内に喫茶店、レストラン、売店、理髪店などの施設を持つ東京大学附属病院は、こういった発想から待ち時間対策に取り組んだ。
同病院の一階には自動受付機が数台設置されている。その自動受付機で受付を済ませると、受付機から携帯電話とほぼ同サイズの小型受信器が出てくる。診察時間が近づくと、この受信機が音とバイブレーションで知らせてくれるので、好きな場所で過ごすことができる。もちろん、「トイレに入っている間に名前を呼ばれ、順番を飛ばされたらどうしよう…」などと心配する必要もなくなる。
これは「患者案内システム」と呼ばれるもので、同病院や京都大学附属病院(1182床)など一部の大病院で導入されている。東京大学附属病院は「建物の中であれば、どこで何をして過ごしていても大丈夫なので、患者さんの満足度は非常に高まっている」と話す。
■待ち時間を大幅に短縮
荻窪中尾耳鼻咽喉科医院(東京都杉並区)では、インターネットを通じてパソコンや携帯電話から、予約や混雑状況が確認できるシステムを導入し、効果を上げている。
都心の診療所では待合室そのものが狭いことが多く、何時間も立って待たなければならないこともある。特に小児科では、子どもだけでなく父母なども一緒に来院するため混雑は激しい。そうなれば、風邪やインフルエンザに感染するリスクも高くなる。逆に、その待ち時間を大幅に短縮できれば、患者は時間を有効に活用できるようになるし、診療所やスタッフも患者から待ち時間について尋ねられることがほとんどなくなり、患者からのプレッシャーからも解放される。駐車場の混雑も解消される―。
このシステムを利用すると、患者は携帯電話や自宅のパソコンからインターネットで予約を入れて、混雑状況や待ち時間を確認し、自宅などで待機。診療時間が近づいてきたことを確認してから診療所へ出かけることが可能になった。
同院では、患者の6−7割が利用しているという。中尾雄二院長は「システムを導入してからは笑顔で診察室に入ってくる患者さんも増え、コミュニケーションが円滑になった」と明かす。医療現場にITが導入されることによって医師やスタッフの業務負担が増えるケースも少なくないが、中尾院長は「ボタンを二回押すだけのシンプルなシステムなので、特に負担が増えたとは感じない」という。
ネットを使えない人や初診患者でも、受付時に混雑状況を把握できるため、高齢の患者にも好評だ。同システムを開発した「アイチケット」によると、小児科を中心に、耳鼻科、内科などで導入が進んでいるという。
■通院時間の長い人ほど待ち時間を短く
「高齢の患者さんの通院、待ち時間の負担を少しでも減らしたい」「通院時間の長い患者さんの待ち時間を短くしてあげられないものか」―。そんな発想から待ち時間短縮に取り組んだのは福島県の会津中央病院だ。
同病院は、遠くから電車で通院する高齢の患者が多かったという。そこで、通院途中に予約ができる独自の予約システムを開発し、JRなど5つの駅にタッチパネルで簡単に操作できる専用端末を設置した。
患者は病院へ行く途中、病院と専用回線で結ばれた専用端末に診察券を入れる。「診療受け付け」画面で受診する科を選ぶと、待ち時間と順番が表示される。患者が病院に到着し、受付機に再び診察券を通すことで、病院は患者の到着を確認する仕組みになっている。
同病院によると、「当初の狙い通り、遠くから通う人ほど待ち時間が短くなり、患者の満足度向上に役立っている。また、専用端末のボタンが大きく、操作がシンプルな点も好評いただいている」という。
このほかにも、待合室の近くに売店を設置する、売店の雑誌コーナーや図書コーナーを充実させる取り組みも広がっている。また、積極的に患者に声掛けすることで待ち時間へのクレームを減らそうと、院内コンシェルジュを設置する病院も増えている。
NPO法人(特定非営利活動法人)「医療制度研究会」の本田宏副理事長(埼玉県済生会栗橋病院副院長)は、「込み合った待合室で3時間も待たされたら、誰だっていい気分はしないだろうし、私が患者だったとしても腹が立つと思う。病院を訪れる患者はただでさえ不安を抱えているので、スタッフが声をかけてくれるだけでも随分うれしいものだ」と指摘し、「各医療機関は独自の工夫で待ち時間を短くする努力を続けていくべき」と呼び掛ける。
更新:2009/01/09 16:25 キャリアブレイン
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