ホンダの広告費はなぜ多い? 900億円の広告宣伝費のナゾ(後編)
そこで、ホンダに広告宣伝費について問い合わせたところ、「国内外の区別を設けず計上している」との回答があった。広告宣伝を世界で統一し、本社が統括している企業ならともかく、販売車種も広告も地域によって異なる総合自動車メーカーでは、考えにくい話である。決算を連結して海外の広告費を組み入れて計上するならば、その旨を表記した上で、北米や欧州などの代表的な地域ごとの内訳を書くべきである。そうでないと、国内の広告宣伝のみで計上している同業他社との正しい比較ができず、投資家向けの情報開示として不適切だからである。
このような情報開示の初歩をホンダが知らないはずはない。国内外に渡って大規模な広告宣伝が行われたと考えるのが自然である。
●不透明な金額はF1の費用か?
ホンダの手がけた世界的な広告事業として「走る広告塔」F1がある。開発費込みで年間に500億円と言われるF1の運営予算と、この「使途不明金」はほぼ同額。F1の運営費を広告宣伝から捻出していると考えると、国内外を区別せずに計上している不思議が説明できる。しかも、用途不明の広告費は、F1の直営チームを立ち上げた06年、タバコ会社が撤退した07年と、ホンダがF1に要する費用が高騰するのと、ホンダの広告宣伝費が急上昇することとも符合する。
この「使途不明金」がF1の費用であったのかは、ホンダが回答しないため、このままだと参戦を取りやめて、費用が発生しない来年度の決算を待たなければわからない。
だが、ホンダ悠長に構えずに、情報を積極的に開示するべきだろう。期間工の3分の1にあたる1500人を来年2月までに削減するほど経営が逼迫しているのに「500億円もの使途不明金」があったのでは、解雇された従業員も納得できないであろうし、投資家も敬遠する。そして、「広告費が販売一台あたり8~9万円は他社よりも余分にかかっている」となれば、ホンダ車の価格と品質に消費者が不信を抱くからである。
これまで使ってきた巨額の広告費の内訳を公表し、来年度以降の販売見込みに応じた削減を行うと発表すれば、こうした懸念は払拭できる。
「今のF1は高すぎる」と理由を挙げて、ホンダの福井社長は撤退を発表した。ホンダF1のかつての栄光を考えると撤退は寂しいが、F1の費用が国内販売に負担をかけていたと言うことであれば、その決断が賢明であったとの説明にもなるだろう。
(谷村智康)
●たにむら・ともやす
広告代理店、コンサルティング会社、コンテンツファンドなどでの業務経験を持つ。既存のメディアやシステムの枠に依存するマーケティングではなく、広告費の過剰と偏りを消費者の都合に合わせて、それ自体を根底からひっくり返そうとする「マーケティング」プランナー。著書に、電通の上前をはね、グーグルの先を行く、メディアと広告をめぐるビジネスモデルを説いた『マーケティング・リテラシー~知的消費の技法』(リベルタ出版)などがある。
もはやテレビ自体がCM。
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