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Dr.北村 ただ今診察中:第167話 サンタクロースが迎えに来るまで

 またまた僕を小躍りさせる季節がやって来ました。目をさました時に、僕の寝ている枕元にプレゼントが置かれていることはありませんが、生きていることの喜びをカラダ全体に感じさせてくれる、それが僕にとってのサンタクロースなのです。

 今年も大きなイベントを成功裏に終えることができました。11月5、6、7日とシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルで開催された第49回日本母性衛生学会学術集会。全国各地から医師、助産師、看護師、保健師、栄養士などなど保健医療にかかわりをもつ2637人の参加者を迎えることができました。通常ですと大学の教室員を中心に準備が進められるのですが、民間の小さなクリニックでこんな大イベントを主催できるのか、会長として立候補した僕ならずとも周囲のだれもが不安を抱いていたことです。でも……。

 「一人の小さな手 何もできないけど それでもみんなの手とあわせれば 何かできる」(訳詞:本田路津子/作曲:ピートシーガー)

 僕との間では小さな糸で結ばれているだけでしたが30人近くによる実行委員会が組織されたのが2007年の春のこと。人の迷惑を顧みることなく、勇気を振り絞って『HELP!』と声を掛けた結果であることは今さら言うまでもありません。国際機関からも協力の手が上がりました。UNFPA(国連人口基金)、WHO(世界保健機関)、IPPF(国際家族計画連盟)などなど。このメーンシンポジウムでは、『Safe Motherhood(安全な母性)』をテーマに秋篠宮妃殿下のお言葉を賜ることができました。皇族の方と身近に言葉を交わすのは僕の人生初めての経験です。

 山田邦子さんも大勢の仲間たちを誘って参加してくれました。手塚治虫文化賞を受賞した伊藤理佐さんからもプログラムを飾るイラストが届けられました。そして何よりも全国から集まってくれた仲間たち。心から感謝します。ありがとう、みんな!

 こんな感慨に浸っている時、僕の心にはサンタクロースの思い出がよみがえってきます。ある老人病院を訪問したときのことでした。死期が間近に迫っていたものですから、家族がベッドを取り囲んでいました。主治医と家族の許可を得てのパフォーマンスです。『We wish your  Merry Christmas……』と大きな声で歌い、おどけながらのサンタクロースの登場。

 「メリークリスマス。クリスマスおめでとう! おじいちゃん」

 「おじいちゃん、サンタさんが来てくれたのよ。わかる?」。家族のみんながいっせいに声を掛けました。おじいちゃんはといえば、閉じていた目を大きく見開いて、驚きを隠せない様子で怪訝(けげん)そうな顔を僕に向けてきました。「ウン、ウン」とうなずきながら頭を上下していた姿が今も僕の脳裏に焼き付いています。

 翌朝、その男性が天に召されたとの報が僕の耳に届きました。「ご家族の方が喜んでいましたよ。おじいちゃんにとっては初めて、そして人生最後の前日にサンタクロースに会えたのだねえ」と。

 厚生労働省によると、自殺によって毎年全世界で約100万人が死亡しているといいます。せっかくもらった命を自らの意志でとはいえ絶ってしまう人が少なくないことが僕には耐え難いほどの悲しみです。あなたがいつ天寿を全うするのかを知る人はいません。明日どんなことが起こるかはだれにもわかりません。だから怖い、不安が走る、だから期待がふくらむ、心がウキウキする。生まれて初めて経験する瞬間が次から次へと訪れる。これが生きているってことです。

 メリークリスマス。クリスマスおめでとう。

2008年12月18日

 

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