医療の問題を考えます。
全国の公立病院のおよそ8割が赤字だと言われていて、自治体は経営の改善を迫られています。
公立病院の経営が急にクローズアップされてきたのはなぜか、私たちの暮らしに深く関わっている、公立病院の経営を考えます。
暮れも押し迫った去年12月、佐賀県武雄市では、市民病院の民営化の是非を巡って市長選挙が行われました。
公立病院のあり方が選挙の争点にまでなるのは極めて異例ですが、今、全国の自治体で経営の改善が至上命題になり、同じような議論が繰り返されています。
福岡市では、市民病院と人工島への移転を計画しているこども病院について、2年後に経営を市から切り離し、独立行政法人にすることを決めました。
福岡市は、給与面などで自由度が高まり、コストが削減できることを法人化のメリットとして挙げています。
さらに、病院建設のための資金調達や運営の一部を、民間会社に委ねる方針も決めました。
この手法を、PFI方式と呼びます。
総務省によると、全国ですでに80あまりの公立病院が民営化や独立行政法人化、PFI方式を採用していて、このほかにも、かなりの数の自治体が経営形態の見直しを計画しているとみています。
一方、経営を重視するこうした状況に警鐘を鳴らす公立病院もあります。
鹿児島市立病院はベッド数687床、市内最大級の公立総合病院です。
6年後に新築移転する予定ですが、議論の末、民営化や独立行政法人化PFIという手法を採らず、現状の公立病院のまま行くと決めました。
経営を重視すれば、不採算部門が廃止される可能性が高いと判断したからです。
2年前開設されたDCUです。
新生児集中治療室・NICUで治療を終えたものの、高度な管理が必要な子供たちを診る場所です。
子供たちは自ら呼吸や食事ができないため、24時間の管理が必要で、在宅介護や福祉施設での受け入れは難しい状況です。
高度な治療が必要な生まれたばかりの子供たちを受け入れる場合、入院費とは別に高額な診療報酬が加算されるため、病院の収入は安定します。
しかし、医療費加算は最大90日までで、それを超えた途端、病院の収支はマイナスに陥ります。
公立病院が経営改善を迫られている背景には、国の方針転換があります。
国は、今年度から「財政健全化法」を施行、自治体の体力を査定する際にこれまで考慮していなかった病院の収支を判断材料に含むことにしたのです。
病院の赤字が膨らめば、国からの借り入れ・起債が制限されることになるため、自治体は新しい事業を行うことが難しくなります。
一方、国には、医療費削減のために病床数を減らしたいという思惑があります。
総務省の「公立病院改革ガイドライン」には、黒字化をめざすため、民営化、独立行政法人化、さらには廃止や再編による縮小も検討するよう示しています。
こちらは、滋賀県近江八幡市の病院です。
医師や看護師が一同に介した仕事納めの場で話題の大半をしめたのは経営に関するものでした。
国と自治体が一体となって進める公立病院の改革。
その先に何が待ち受けているのか。
私たちの社会は今、かつて経験したことのない医療環境に突入しようとしています。