元麻布春男の週刊PCホットライン

Macworldの基調講演を振り返って




 PC/IT業界の新年を飾るイベントといえば、サンフランシスコのMacworldと、ラスベガスのCESと相場が決まっている。どちらが先になるかはその年次第で、今年はMacworldが2日先行する日取りになった。言い換えれば、2つのイベントは日程が重なっており、掛け持ちしやすい。筆者もこの後、ラスベガスへ向かう予定だ。

 まずは1月5日に開幕したMacworld 2009だが、キーノートが行なわれた後、メイン展示会場が開いたは2日目の1月6日。初日の5日は、一部カンファレンスのみが開催されるプレビュー的な1日であった。

スティーブ・ジョブズCEOに代わり、最後のMacworldのキーノートを行なったフィリップ・シラー副社長

 今回、Macworldのキーノートスピーチを勤めたのは、ワールドワイドマーケティング担当のフィリップ・シラー上席副社長だ。Appleへの復帰以降、キーノートスピーチはスティーブ・ジョブズCEOが行なってきたが、今回は健康上の理由もあり、シラー上席副社長の出番となった。

 シラー上席副社長のスピーチは、ますます拡大を続けるApple Storeの快進撃と、それを支えている顧客に対する謝辞でスタートした。この導入部は、ジョブズCEOのスピーチに極めて近い印象であった。そして、今日はMacの話に絞ろうということで、まず紹介したのがiLifeの最新版、「iLife '09」だ。iLifeは、iPhoto(写真の管理と編集)、iMovie(動画編集)、GarageBand(簡易DTM)、iDVD(DVD作成)、iWeb(Webページ作成)の5本で構成される、コンシューマー向けのソフトウェアパッケージ。Macを購入するとその時点での最新版がバンドルされているほか、8,800円で単体販売もされる(既存ユーザー向けアップグレード。5台までのMacにインストール可能なファミリーパックもある)。

 最新版のiLife '09では、iPhoto、iMovie、GarageBandの3本がメジャーアップグレード、iDVDとiWebがマイナーアップデートという位置づけになる。iPhotoの目玉は顔認識を利用したFaces、ジオタグを利用したPlaces、FacebookやFlickrとの連携強化、Slideshow機能の拡張、旅行の写真を手軽にまとめるTraveling Bookといった機能だ。

 デモを見た限り、いずれの機能もAppleらしくよく練られ、高い完成度を示していたと思うが、個々の機能に目新しさがあるかというと疑問が残る。PC上での顔認識はNECがすでに実用化しているし、ジオタグの利用はすでに一般化している。各機能の融合や完成度の高さといった点で、うならせる出来であるとしても、驚きはない。これはiMovieやGarageBanも同様だ。

 シラー上席副社長のスピーチは、このiLife '09の説明に約50分を費やした。キーノート全体のほぼ半分を占めたのがこのiLife '09であり、今回のキーノートの中心ということになる。なるほどiLife '09は良いソフトかもしれないが、今度のWindowsの目玉はWindows Movie Makerです、と言われたような困惑を感じたのも事実だ。

 次の話題として紹介されたのは、Apple版のオフィススイートであるiWorkの最新版、「iWork '09」だ。iLifeと異なり、別売のアプリケーションセットだが価格設定はiLifeと同じ。Mac OS Xと3本セットにした「Mac Box Set」(シングルユーザー版18,800円、ファミリーパック24,800円)も提供される。さらにiWorkで作成した文書をオンライン共有するサービス、iWork.comのベータサービスを開始するというアナウンスが行なわれた。このiWorkのパートが合わせて約20分間で、冒頭からの累計で70分が経過、大きなニュースはなさそうな雰囲気が漂った。

展示会場の17インチMacBook Pro。来場者の多くが取り囲んでいた

 ようやく3番目のトピックとして登場したのが17インチのMacBook Proだ。昨年秋に13.3インチのMacBookと15.4インチのMacBook Proがリニューアルした際、なぜかマイナーチェンジでお茶を濁した17インチがこのタイミングでリニューアルされた。削り出しの一体型アルミニウムトップカバーを採用したデザインは基本的に同じ。チップセットがNVIDIAのGeForce 9400Mを採用するのもMacBook/MacBook Proシリーズに共通した特徴となる。

 MacBook/15.4インチMacBook Proとの違いは、新しい大容量のリチウムポリマー電池を採用したこと。MacBook Airのようにバッテリーの取り外しを不可能にする代わりに、取り外しメカニズムの部分までセルに充てることで40%の容量増加を実現、最大8時間のバッテリ駆動時間を達成した。これは従来の17インチMacBook Proに対してカタログレベルで3時間長く、ポータブル型Macとして最長のバッテリ駆動時間となるが、予備バッテリを持ってさらに駆動時間を延ばすことはできない。ただ、MacWorldやWWDCといった米国のMac関連イベントを見る限り、大半のユーザーがACアダプタを持参していることを考えると(そしてイベント会場には至る所にテーブルタップが用意される)、米国で予備バッテリを用意するユーザーは少数派であり、標準バッテリで長時間駆動できる方が喜ばれるのだろう。Appleの発表では本体重量も従来と同じ6.6ポンドで、バッテリの大容量化による重量の増加はない。米国での標準価格も従来通りの$2,799である。

 新しいバッテリのもう1つの特徴は、1,000回程度の充電サイクルに耐えられることだ。1台のPCのライフサイクルにおいて必要となるバッテリの数が削減されるわけで、環境に優しいということは言えるだろう。これを実現するためにMacBook Proではセルごとに最適な充電電圧に制御するAdaptive Chargingを採用したとしている。

 1,000回程度の繰り返し充電に耐えるバッテリというと、昨年12月にHPが採用すると発表したBoston PowerのSonataが知られる。が、Sonataで謳われた短時間での充電や安全性についてAppleが触れなかったことを見ると、別のテクノロジーなのだろう(セル形状も若干異なるように見える)。

 もう1つMacBook/15.4インチMacBook Proと異なるのは、液晶ディスプレイにノングレアのオプションが用意されることだ。標準デイスプレイはMacBook/15.4インチMacbookと同じ光沢液晶だが、50ドルの追加でノングレアが選択可能になる。ほかにも最大8GBのメモリが搭載可能であったり(標準は4GB)、256GBのSSDがオプションに用意されたりと、ハイエンドにふさわしいスペックはうかがえるものの、Blu-ray Discドライブの採用はやはり見送られている。

 今回のMacworldで発表されたハードウェアはこの17インチMacBook Proのみで、噂されていたiMacのアップデートやMac miniのアップデートはなかった。Macworldがどちらかというとコンシューマー向けのイベントであることと、折からの不景気を考え合わせると、この発表で良かったのかと思わなくもないが、ほかに選択の余地はなかったのだろう。17インチMacBook Proにしても即日出荷ではなく、1月下旬出荷予定となっている。イベントに合わせて新製品を発表することはもうできない、ということなのだろう。

 この17インチMacBook Proにおよそ10分間を費やした後、最後に発表されたのがiTunes Storeに関するアップデートだ。その要点は、これまで0.99ドルの統一価格だったiTunes Storeの販売楽曲を、4月1日から0.69ドル、0.99ドル、1.29ドルの3本立てにすること、その代わりというのもなんだが、SONY BMG、EMI、UNIVERSAL、Warnerの4大メジャーレーベル、引き続いて独立系レーベルも、DRMフリーのiTunes Plusフォーマットで楽曲を提供することだ。シラー上席副社長は1.29ドルを受け入れる代わりにDRMフリーにする、といった表現は用いなかったが。

 こちらの新聞等では、このニュースをトップ記事にするものが圧倒的。影響の大きさという点で、まぁそうなんだろうとは思う。が、楽曲あたり2ドル以上を支払い、しかも4大メジャーレーベルが顔を揃えないiTunes Storeの国からきた者としては、どう反応してよいやら、というのが正直なところだ。

 そして最後は米国最高のヴォーカリストの1人と称されるトニー・ベネット氏(御齢82歳! )が紹介され、締めくくりに「I Left My Heart in San Francisco」を歌った。今回がサンフランシスコのMacworldへの出展が最後となることを意識しての選曲だと思うが、ちょっと複雑な気分になる演出ではあった。

iTunesで販売される楽曲の価格が3系統になるわけだが、最も高価な1.29ドルでも日本の価格よりはるかに安い I Left My Heart in San Franciscoを歌うトニー・ベネット氏 ジオタグをサポートするiPhotoだが、単に緯度経度を表示するのではなく、地図からその場所を読み取るあたりがAppleらしさか

□関連記事
【1月8日】Macworld San Francisco 2009 基調講演詳報
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0108/mw03.htm
【1月7日】Macworld Conference&Expo開幕速報
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0107/mw02.htm

バックナンバー

(2009年1月9日)

[Reported by 元麻布春男]

ヒョーバンズで反応をみる

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.