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【社説】

日本の製造業 モノづくりの火消すな

2009年1月9日

 日本経済を牽引(けんいん)してきた製造業があえいでいる。とりわけ中部での悪化が顕著で、逆に足を引っ張る存在になりかけている。モノづくりの試練の時だが、技術と知恵で新時代を切り開きたい。

 原材料を輸入し、加工して輸出する。日本が当たり前にしてきた経済の基本が、世界不況の荒波に揺さぶられている。

 バブル崩壊後、一九九〇年代の国内経済落ち込みには、技術革新が支えとなり、欧米や新興国への輸出増や海外生産の拡大で成長路線を敷いた。ハイブリッド車など低燃費の自動車や、薄型テレビといった先進の家電製品など、世界水準の一歩先を進んできた。

 こうして成長の中核となってきた製造業が、大減産を強いられている。特に製造品出荷額の三割以上を占める中部経済には影響が大きい。自動車が主力だが、航空機、家電、半導体と製造品目は幅広く、世界を相手にする中小部品メーカーも多い。

 今年三月までの半年間で中部で職を失う非正規労働者は少なくとも三万人を超え、全国の36%を占める。帰郷しても仕事はない。沖縄県知事がトヨタに雇用確保を頼むように、中部の雇用不安は全国に深刻な影響をもたらしている。

 資金繰りに苦しむ中小企業は、春までのめどが立たず「どれほど身を削れば」と切実だ。中部経済産業局は先月、メガバンクの貸し出し姿勢が厳しいと指摘した。

 だが縮こまってばかりいては解決にならない。北陸の中小企業は中日産業技術賞受賞を機に、技術が複数のトヨタ系企業の目にとまった。取引先、自社に眠る新しい芽を探そう。この戦略の重要性は中部の企業に限らない。

 三菱自動車が電気自動車をフランス企業に提供する検討を始めたのは、技術開発力をてこに、海外企業との協業で将来の成長を目指す好例だろう。

 職を失う労働者も、職場で改善活動に身を置き、いいモノを造るという意欲と勤勉さを備えた宝だ。先進の技術ほど、広く展開すれば生産、保守管理が大切になる。人材をさらに育て、先に備えるべきだ。「法は守っている。あとは政府で」という経営は、後でそっぽを向かれる。

 ねじ一本足りなくても製品は完成しない。取引先の苦境を見過ごしては、思わぬ倒産で部品調達に困る。製品が出来上がる流れを見て、下請けの分まで資金を調達する必要もあろう。

 

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