ニュース: 事件 RSS feed
【主張】赤羽医師解放 民間人の安全確保強化を
昨年9月にエチオピア東部で武装グループに誘拐され、隣国ソマリアに拉致されていた日本人医師、赤羽桂子さん(32)がオランダ人男性看護師とともに3カ月半ぶりに解放された。
解放までに長い時間がかかったが、同胞が無事解放されたことをまずは喜びたい。
赤羽さんは、国際医療支援団体「世界の医療団」(MDM、本部・パリ)に属し、ボランティアとして紛争地や被災地などでの人道医療活動に従事していた。
MDMは1980年、フランス人医師で後に外相も務めたクシュネル氏らによって設立され、「国籍、人種、思想、宗教などのあらゆる壁を越えて、最も弱い立場にある人々に支援の手をさしのべる」ことを目的としている国際非政府組織(NGO)だ。
政治的、経済的、宗教的にも独立と中立を保つため、国連や各国政府からの援助は35%以下とし、残りの経費は民間からの寄付でまかなっている。95年の阪神大震災の際も救援にかけつけ、それを機に日本支部も設立された。
政治的中立性を保つため、紛争地でも政府軍などの護衛をつけずに活動していたことが、今回の事件を誘発する一因ともなったようだ。そこを狙った犯人たちの卑劣さは糾弾するに余りあるが、今後の反省点ではある。
しかし、より大事なことは、こうした崇高な目的のために献身的に働く民間人、邦人たちの海外での安全をいかに確保するかだ。政府としても、一段と態勢の強化を図るべきだろう。
日本の政府開発援助(ODA)額が10年連続で減少し、2007年の実績では世界5位に転落、国際的地位の低下が懸念されているとき、赤羽医師たちの働きが日本の国際的評価向上にも貢献していることを考慮すべきだ。
犯人グループは「身代金を得たので解放した」などとうそぶいているようだが、身代金による解決は新たな誘拐事件を助長する。政府や関係機関は、否定ないしノーコメントを貫いている。
無法地帯と化して久しいソマリアなどのようなところでは自衛のための力も必要となる。政府がソマリア沖の海賊対策に海上自衛隊の派遣を検討しているのもそのためだ。一国だけの対応には限界がある。昨年末に採択された海賊対策の国連決議が求める国際協力に日本も積極的に応じたい。