日本郵政が赤字続きの宿泊施設「かんぽの宿」の一括譲渡先にオリックスグループを選んだのに対し、鳩山邦夫総務相が待ったをかけた。オリックスの宮内義彦会長が小泉政権の規制改革・民間開放推進会議の議長を務め、民営化議論を主導していたとして「国民が出来レースと受け取る可能性がある」という。譲渡手続きの認可を拒むことも示唆した。
総務相の姿勢は到底納得できない。両社はともに「公正な競争入札を経た決定」と説明し、譲渡契約も調印済みだ。不正の疑いがあるなら徹底的に調べればよい。だが対象企業の経営者の公職歴や主張を盾に入札結果を拒むのは筋が通らない。
かんぽの宿は郵政民営化前の簡易保険事業が余資運用の一環として全国に整備した福祉施設である。採算の合わない投資やずさんな運営が重なり、2007年度は40億円、08年度上期も26億円の赤字を出している。日本郵政株式会社法は民営化から5年となる12年9月末までにかんぽの宿の施設を譲渡・廃止すると決めている。
総務相が認可した08年度の事業計画に沿い、日本郵政は昨年4月に譲渡先の募集を始めた。27社が名乗りを上げ、2回の入札を経て、最も高い金額を提示したオリックスに70施設を一括譲渡することを年末に決めた。4月に予定した譲渡後も施設に勤める約3000人の雇用は維持する。赤字事業を極力早く手放すのは経営健全化を急ぐ日本郵政として合理的な判断だ。オリックスにはホテル再生のノウハウもある。
鳩山氏はかんぽの宿を「国民共有の財産」と呼び「売却には一点の曇りもないようにしなければ」と言う。宮内氏が小泉純一郎元首相の改革路線を支えたのは事実で、それを批判するのは自由だ。しかし、随意契約でなく入札という手続きを経た結果を、十分な根拠もなく「お手盛り」のように言うのは明らかに行き過ぎである。こんなことでは公職を引き受ける経営者もいなくなる。
郵政民営化の見直し論や国会での野党による追及をにらんでの発言だろうが、所管大臣が入札結果に堂々と介入するのは常軌を逸している。譲渡をやめてもかんぽの宿の赤字は消えない。重荷は誰が負うのか。