天然ガスの供給をめぐるロシアとウクライナの対立は、ウクライナ経由で送られている欧州向けガスが完全停止するといった事態に発展してしまった。東欧を中心に欧州全体に影響が広がっている。
ウクライナ側は、「ロシアがガス供給を停止した」と主張し、ロシア側は「パイプラインを封鎖したのはウクライナだ」と反論して、双方が非難の応酬を続けている。
ガス価格などで交渉が決裂し、ロシアはウクライナ向けのガス供給を停止したものの、欧州向けの供給は続いていたはずだった。
ところが、現実には、オーストリア、チェコ、ルーマニア、スロバキアなど10を超す国々でロシア産ガスの供給が完全停止したという。東欧に進出している日本企業が操業停止に追い込まれるといった事態も起こっている。
ウクライナがガスを抜き取っているのか、ロシアが供給を停止しているのか定かではないが、純粋に経済的な利害対立から起こったことではないため、事態は複雑だ。
ロシアは昨夏、グルジアに武力で臨んだ。ウクライナはグルジアと同様に親欧米政権で、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指している。
3年前にもガス供給で両国は対立し、欧州への供給に影響が出た。それが繰り返されたわけだが、ロシアがウクライナに対し資源で圧力をかけている背景には、親欧米政権への懲罰と、欧米諸国に対するけん制の意味合いがある。
ロシアは天然ガスでも石油輸出国機構(OPEC)と同様の国際カルテル組織の結成をめざすなど、資源を武器に大国としての存在感の拡大を図っている。
サハリンでの石油・ガス開発でもロシア側に主導権を奪われるなど、その影響は日本にも及んでいる。
欧州は天然ガスの約25%をロシアに依存している。3年前の供給低下を教訓に、備蓄強化や液化天然ガス(LNG)への切り替えなど供給源の多様化を図ってきた。しかし、十分に進んでいるとはいえない。
ロシアに限らず、エネルギー資源の国有化の動きが世界的に広がり、消費国側が資源に直接アクセスすることが難しくなっている。エネルギー安全保障の観点から、日本も資源確保に向けて官民が協力し、戦略的に対応するよう求めたい。
特にロシアには注文をつけておきたい。強権的対応は中長期的にみて得策ではないということだ。中央アジアから直接供給を受けるなどロシアを迂回(うかい)したエネルギー供給ルートの建設が進むだろうし、ロシアへの海外からの投資にも影響しかねない。
厳冬期にガス不足に見舞われた欧州諸国は、とんだとばっちりを受けた格好だ。問題を棚上げにしてでも、速やかに供給が再開されるようにすべきだ。
毎日新聞 2009年1月9日 東京朝刊