やはり疑問はふくらむばかりだ。08年度2次補正予算案を審議する衆院予算委員会の質疑が始まり、国会の論戦が本格化した。焦点の定額給付金について麻生太郎首相は今度は景気刺激策の意図を前面に出し、高額所得者も受給し「盛大に」使うべきだと説明した。かつて否定していた自身の受け取りについても態度表明を避けた。
制度設計の責任者である首相自らが態度をはっきりできないようでは、国民に必要性を説得しようがあるまい。与党は給付金の予算案からの分離をあくまで拒む構えだが、強行採決すれば国会は混乱し、焦眉(しょうび)の雇用対策の議論にも悪影響を及ぼすだろう。深刻な状況と言わざるを得ない。
民主党の菅直人代表代行の質問に対する首相の答弁には首をかしげざるを得なかった。首相は経済情勢の変化を理由に、給付金の性格は消費刺激の比重が増したと説明した。かつて批判していた高額所得者の受給も望ましいと答弁した。
給付金については所得制限を前提とする社会保障政策なのか、それとも景気刺激策なのかの位置づけがこれまでも揺れ動いた。その揚げ句、所得制限の判断を自治体に丸投げしていたが、今さら景気刺激策だと強調しても生煮えぶりを露呈したようなものだ。制度の性格を変えるのであれば、自治体への丸投げも撤回すべきだろう。
それ以上に解せないのが、首相が自身が受け取るかの態度表明を予算案の未成立を理由に拒み、「その時になって判断する」との姿勢を崩さなかったことだ。「個人の判断」の側面も強調したが、制度設計の責任者である首相の立場は一個人とはもちろん異なる。そもそも、成立どころか予算案を提出する前から「人間の矜持(きょうじ)」を理由に受領拒否を表明していたのは、当の首相である。
今国会から給付金をめぐる首相の発言のトーンが変化したのは、自民党の細田博之幹事長が国会議員も受け取るよう政府に統一見解を出すよう求め、河村建夫官房長官も同調した事情がある。首相は「以前と経済情勢はすごく変わった」と語るが、変転しているのは政府・与党の対応の方ではないか。
肝心の雇用問題の議論も具体的に進まない。参院本会議は政府と企業に雇用の維持などを求める決議を全会一致で採択したが、実効性に乏しい。しかも、文言調整などをめぐる与野党の駆け引きが先行した。国民の危機感からかけ離れた攻防と言わざるを得ない。
与党は2次補正予算案の13日の衆院通過を目指すが、野党の反発を無視すれば国会は混乱し、参院での審議はもちろん、09年度本予算案審議にも影響を来しかねない。政治への不信を加速させぬためにも、矛盾を深める給付金の分離に首相は応じるべきである。
毎日新聞 2009年1月9日 東京朝刊