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構成員も警察官も愛読!? 山口組とヤクザ社会がわかる本

構成員も警察官も愛読!? 山口組とヤクザ社会がわかる本
 後藤組後藤忠政組長への除籍処分や傘下団体の引き起こした事件報道により、最近も何かと目にする機会の多い"山口組"の文字。一般的にはコワモテのイメージが強いが、彼らをモデルにしたノンフィクションや映画の影響により、その人気は驚くほど高い。

 そもそもヤクザとは、山口組とは、どのような存在なのだろうか?

「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴対法)では、同法が適用される任侠組織を「指定暴力団」として"指定"し、取り締まりの対象にしている。指定の要件は、犯罪経歴のある構成員が一定割合以上を占め、組長を頂点に組織がピラミッド型に構成されている点などである。実話誌で活躍するライターA氏によると、「この法律は、もともと山口組の壊滅を目指したものでした。圧倒的な資金力と構成員数で全国に進出する山口組は警察にとって宿敵であり、この山口組をなんとか潰そうということで92年に施行された」という。

 警察が発表している暴対法の指定状況によると、2008年7月現在で指定暴力団は22団体、構成員総数は07年の年末現在で4万900人を数え、この構成員数のほぼ半数・2万300人が山口組(とその傘下の)組員。また、準構成員の数は構成員の数を上回っており、山口組は「4万人軍団」とも称されている。

「これほどの規模になったのは、やはり三代目の田岡一雄組長(1913〜81年)の功績が大きいでしょう。数十人の博徒組織であった山口組を、人柄と圧倒的な資金力により、一代で1万5000人にも及ぶ大組織に成長させた手腕は、現在も伝説となっています」(前出・A氏)

「ヤクザも正業に就く」という信念を持った三代目田岡組長が、卓越した経営手腕でビジネスを成功させたのは、関係者の間ではよく知られた話である。土建業のほか神戸港において、現在の人材派遣業である港湾荷役業に進出、その後は芸能興行の「神戸芸能社」を設立して美空ひばりなどを世に出した。

「田岡組長が三代目を務めていたのは46年から81年に亡くなるまでですが、当時は時代の空気もヤクザに対して寛容でしたね。60年代以降は映画産業も盛んで、多くのヤクザ映画が作られました。中でも田岡組長を俳優の高倉健が演じた映画『山口組三代目』(73年公開)がヒットしたこともあり、田岡組長の名は一般にも広く知られました。田岡組長は『戦後の混乱期に行き場を失った若者たちを束ねて正業に就かせ、警察と渡り合った』というスタンダードな親分像として一般にも広く受け入れられたのでしょう」(A氏)

 また、田岡組長は自伝を執筆するなど、メディアにも協力的であったという。『山口組三代目田岡一雄自伝』は、 73年に三部構成で刊行され、一時は絶版になるものの、06年に復刊されるなど、世代を超えたファンがいるようだ。内容はもちろんヤクザとしての人生観が中心だが、戦前の貧しい農村の風景や、戦中戦後の混乱、高度成長期など、近現代の日本の姿が、大正生まれの著者の目を通して詳細に描かれている。

 まえがきは「荒っぽい半生と思われるかもしれませんが、わたしはわたしなりに一日本人として精いっぱい生きてきたつもりであり、今後も男としての本当の死地を見つけるまで、微力を尽くして働きたいと考えております」と結ばれ、素直にカッコイイと思える1冊といえる。

 ここからは、一般社会では恐れられながらも多くの熱烈なファンを生み続ける、山口組をめぐる書籍をひもといてみたい。

●山口組を扱った書籍とその作家たちの横顔

 ヤクザに関連する出版物のうち、田岡組長の自伝のように本人が書いた本というのは少なく、ファンや構成員向けのものと、批判を含めたノンフィクション系に二分される。

 前者は実話誌を中心に展開され、継承式や縁組などの儀礼(盃事)や放免祝いの様子などがグラビアで紹介されたりする。「実話時代」(メディアボーイ)や「実話時報」(竹書房)などの月刊実話誌、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)や「週刊大衆」(双葉社)、「アサヒ芸能」(徳間書店)などの週刊誌に掲載された記事をまとめて、増刊号やムックとして発売することも多い。

「最近のムックはやはり、当代の六代目司忍組長と現体制に関するものが目立ちますね。歴代の組長はそれぞれ人気があり、神格化されていますが、司組長は冤罪ともいわれる事件で収監されていることもあって注目度が高いのだと思います」とは先のA氏。

 六代目襲名からの山口組の動向を「アサヒ芸能」がまとめた『山口組血風録──司忍六代目激動1100日の真実! 最新保存版』(徳間書店)や『六代目山口組 激動の1000日』(洋泉社)などは、襲名から東京進出、他組織との縁組などの盃事などを丹念に追う。A氏によれば、「こうしたムックは、親分クラスの顔を覚えるために警察関係者も熱心に買っている」という。

 一方、山口組をめぐるノンフィクションの中には、純粋なファンのためのムックや実話誌には決して書かれることのない"批判"を記した本もある。

「よく知られているのは、ノンフィクション作家の溝口敦氏と木村勝美氏ですね。溝口氏の場合は厳しい記述が関係者から批判されながらも、作品がコミックになったものもあるし、人気があるようです。溝口氏に限らず、ここ数年はアウトローのノンフィクションを原作にしたコミックが売れています」とA氏は語る。

 溝口氏の著書を原作としたコミックス『血と抗争! 菱の男たち』や四代目竹中正久組長を描いた『荒らぶる獅子』はコンビニでも買える手軽さが受けているようだ(ちなみに「菱」とは山口組を指す。代紋である「山菱」からきている)。そんな溝口氏は、徳間書店に勤務後フリーになり、ヤクザ社会のみならず、食肉業界、パチンコ業界、新興宗教などについて多数の著書を著し、いずれも批判的に検証している。山口組に関しては、自身の記事が原因で関係者から過去3回襲撃や威嚇を受けたとウェブサイトに記しているが、その後も『司忍組長と高山清司若頭の六代目山口組』など精力的に出版を続けているツワモノだ。

 一方の木村氏は、某夕刊紙などを経て『山口組若頭暗殺事件──利権をめぐるウラ社会の暗闘劇』で注目され、射殺された宅見勝若頭の実像に迫った『暗殺までの15328日──五代目山口組・宅見勝若頭の生涯』などを上梓。内容に関しては関係者から批判も出ているというが、進学校出身の青年が山口組のナンバー2に上り詰める過程を追っており、その着眼点は実に興味深い。

 さて、溝口氏や木村氏のような積極的な批判や肯定はせず、比較的ニュートラルに描いているのが作家の猪野健治氏や正延哲士氏、宮崎学氏、大道智史氏などである。

 猪野氏は双葉社などを経て「実話時代」ほか多くのメディアに山口組の歴史などを執筆し、『山口組永続進化論──変貌する4万人軍団のカネ・ヒト・組織力』をはじめ多数の著書がある。同氏の著作に共通してみられる「反差別」の視点には定評があり、まさに重鎮の風格だ。

 正延氏も『伝説のやくざ ボンノ』や『最後の博徒──波谷守之の半生』など入念な取材を基に、ヤクザの実像をリアルに描く。『伝説の〜』は山口組だけでなく、ヤクザ界のスーパースターといわれたボンノこと菅谷政雄の山口組絶縁処分に迫る。ボンノとは「煩悩」から来た呼び名だというが、人間的魅力にあふれた洒落者で、若い衆のみならず映画俳優などからも慕われていたという。

『最後の〜』はボンノの舎弟となった波谷守之の半生を紹介。映画『仁義なき戦い』のモデルである広島抗争に貢献し、博徒としてもその名を馳せていた波谷だったが、対立組織の組長射殺の嫌疑をかけられ、法廷で争う。正延氏は、そんな波谷の無実を確信して、同書を執筆したとされている。

 宮崎氏は、自身がヤクザの息子として育ち、父親の組織が山口組と対立していた経緯などから、さまざまな思いを込めて『近代ヤクザ肯定論──山口組の90年』を書いた。任侠組織が近代の貧困社会におけるセーフティネットとして機能していた時代のことや、昨今の暴対法によりマフィア化して犯罪集団となることへの危惧など、近代ヤクザの状況をシビアに追っている。

 同じく山口組の通史を書いた大道氏の『山口組──激動90年の軌跡〈第1部〉誕生から分裂まで』、『山口組──激動90年の軌跡〈第2部〉五代目と六代目の時代』も丁寧に歴史を取材しているので、資料としても貴重だ。

 ちなみにCIA(アメリカ中央情報局)など各国のインテリジェンス機関も日本のアウトロー社会には興味を持っており、「TIME」や「Newsweek」などはよくヤクザの記事を掲載している。また、ヤクザの娘として育った天藤湘子氏の回想録『極道(ヤクザ)な月』(幻冬舎アウトロー文庫)は、その英訳版『YAKUZA MOON』(講談社インターナショナル)が海外メディアに広く紹介され、好評を博しているという。

●ヤクザ報道のタブーとクレームの後始末

 ここまでは山口組の書籍を中心に見てきたが、山口組に限らず、こうした執筆活動やヤクザジャーナリズムにおいて、タブーやご法度はあるのだろうか?

「ヤクザについて書くときはやはり気を使いますが、それは相手が怖いからというわけではありません。報道被害については、誰に対しても同様に配慮していますよ」

 こう語るのは、別の実話誌ライターB氏。

「むしろヤクザ業界のほうが、クレーム対応しやすいかもしれません。事務所に謝りに行って、経緯を説明して訂正記事を出せば、わかってもらえます。裁判をちらつかせてカネを要求したりするのは、むしろシロートですよ。まあ、事務所の応接間に木刀とかがフツーに置いてあって怖かったりしますが(笑)」

 基本的にヤクザ記事に対するクレームは、名前と組織内の地位に関する誤植がほとんど。実話誌の記者たちは、最新の人事情報を常にチェックしているが、それでも漏れがある。

「中でも昇進昇格は重要で、記事になった際、見逃したりしていると大問題です。あとは本名と稼業名を混同したり。もっともこうしたことはヤクザに限らず、有名人や文化人でも同じことですよね」(同)

 そして、意外なようだが、近年の山口組は取り締まりを避けるためか基本的には取材は受けないことになっている。とはいえ実話誌は組員にも人気があるので、傘下組織によっては盃事に報道関係者を入れることも多く、記者や編集者によっては彼らと良好な関係を築いている人も多い。だが、抗争時には厳格な箝口令が敷かれる。

「ヤクザが知り合いの記者に話したことが相手組員や警察に漏れて、トラブルになったり、世間話を装って連絡を取って、できる範囲で記事にすることもあります(笑)。逆に組員から『何か新しい情報はないか?』と聞かれることもありますよ」(同)

 また、ヤクザ記事を扱う実話紙では、「暴力団」という言葉は絶対使わないという。

「"暴力団"はお上が作った警察用語であり、大手メディアはこれを使います。ですが、ヤクザとのつながりで記事を書く実話誌では、決して使うことはありません」(同)

 ヤクザが社会にとって歓迎される存在でないことは確かだが、なぜ彼らが存在するのか、その魅力はどこにあるのか、これらの雑誌や本で探ってみてはいかがだろうか?
(取材・文=三島優/「サイゾー」1月号より)

※構成員人数・参照データ『警察白書』 http://www.npa.go.jp/hakusyo/h20/honbun/pdf/20p20200.pdf


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