MSN マネースペース
医師にも求められる演技力?
2008年09月11日
ある公立病院の医師は「私も私の周りの医師も、『ありがとう』と言われるより『バカヤロー』と言われるほうがはるかに多いんですよ」と力ない表情でおっしゃいます。何も答えられずに次の言葉を待っていると、「包み隠さず、丁寧にありのままをお話しすると、重箱の隅をつつくように『それって医療ミスですよね』と攻め立ててきます。まじめな医師ほど疲れ果てて辞めていくんです」。
インフォームドコンセントって何?
Aさんは呼吸がしづらく、小走りすると内臓がぐらぐらする感じを覚え、ある公立病院で診療を受けました。レントゲンの結果、自然気胸という病気だと診断され、以下は担当医師と患者の会話です。
医師:入院をして、肺に管を通して空気を抜き、つぶれている肺が膨らむのを待ちます。もし膨らまない場合は手術になる可能性もあります。
(じっとAさんの目を無表情で見つめる)。
医師:症状が劇的に進んでいる様子ではないので、このまま自然治癒する可能性もあります。
(じっとAさんの目を無表情で見つめる。しばし無言の時間が流れる)
患者:(??? これは質問なのか? 二つのうちどちらかを選べということか? 恐る恐る)入院をしたほうがいいんですか?
医師:はい(無表情のまま)。
患者:(釈然としないながら)分かりました(「分かったのかよ!」と自分に突っ込みを入れながら)、入院します。
医師:ではこの用紙に住所とお名前などを記入してください。
患者:(記入を始めるが、気を取り直して)入院しないという選択肢もあるんですか?
医師:はい。その場合は症状がどんどん悪くなって危険な状態に陥る可能性があります。
(あくまでも無表情でじっとAさんの目を見る)
患者:(「最初っからそう言えよ」と思いつつ)そうですか。
医師:(別の用紙を取り出し、文面をボールペンでなぞりながら)これから処置を行いますが、処置にあたっては肺を突き破る可能性があります。
(あくまでも無表情)
患者:はぁ??? 突き破るんですか? 肺を?
医師:突き破らないように気をつけますが、絶対にミスが起こらないとは言えません。
(あくまでも無表情)
患者:(「そんな自信のないことでどうする!頑張ってくれよ」と心で叫びつつ)はい、分かりました(「分かりたくないけど、ここでゴネても先に進めないし」)。
医師:局部麻酔をしますが、ごく稀に合併症を起こす可能性があります。
患者:(聞いてるだけで具合が悪くなりそうなので)はいはい分かりました。肺を突き破るかもしれないし、麻酔で合併症を起こすかもしれないんですね。そのような時はすぐに対応してもらえるような体制は整っているんですよね。
医師:はい。スタッフも揃ってますから、きちんと対応できます。
患者:(「まだ死にたくないんだからホントに頼むよ」)よろしくお願いします。
医師:ではこの用紙を受付に持って行って、入院の手続きをして戻ってきてください。
(手続きをして戻ってくると、看護師さんが処置の準備に忙しく立ち働いている。医師は何か書き物をしているので、Aさんは手持無沙汰でイスに座っている)
医師:(顔を上げ、Aさんの目を見てあくまでも無表情のまま)入院になります。
患者:(「だから今手続きしてきたんだよ」と椅子からずり落ちそうになりつつ)はい、知ってます…。
医療のプロフェッショナルは演技も上手?
この医師の名誉のために言っておくと、決して人柄が悪いわけでも技術に自信がないわけでもないようです。その後の処置はきちんと上手にこなしてくれたそうです。しかし、万一、結果が悪かった場合、「リスクの説明はしたし、医療は不確実なので一定の確率でミスは起こります」と無表情で答えるのでしょうか。単にコミュニケーションの取り方が上手ではないのか、冒頭の医師が言うように、患者さんからの罵詈雑言にさらされているうちに、自分の心を守るためにそのような対応になってしまったのか、真実は分かりません。
ときどき「モンスターペイシェントなんて大げさに言うけれど、そんな患者はごく僅かでしょ」との意見もあります。しかし確率の問題ではなく、たとえ少数であろうと、執拗な、あるいは激烈なクレイマーの存在は医療従事者の心を冷やし、普段の医療活動に及ぼす影響は測り知れないものがあると思われます。モンスターペイシェントの存在は医療現場を疲弊させ、医師に向かう刃は医療崩壊という形で確実に私たち自身に向かってきます。
多くの医療者は、「患者さんの『ありがとう』の一言で救われて、また頑張ろうという気になる」とおっしゃいます。医療者と患者は対立関係ではなく、病を治すという共通の目標を持つパートナーです。医療者も人間ですから、自分を敵対視する患者に対して誠心誠意対応することは難しいでしょうし、患者自身の負の感情も病の治癒にはマイナスでしょう。分別をわきまえて、賢く医療を受ける知恵を患者が身に付けることが、自分の身を守る上でも大切なのは言うまでもありません。
それでもなお、まずはプロフェッショナルである医師が、コミュニケーション能力も医療技術のうちと心得、患者を安心させたり心穏やかにさせる「演技力」、誠心誠意患者のために尽くしている「フリ」を身につけていただきたいと切に願います。患者は毎日患者の練習をするわけにはいきませんので。
インフォームドコンセントって何?
Aさんは呼吸がしづらく、小走りすると内臓がぐらぐらする感じを覚え、ある公立病院で診療を受けました。レントゲンの結果、自然気胸という病気だと診断され、以下は担当医師と患者の会話です。
医師:入院をして、肺に管を通して空気を抜き、つぶれている肺が膨らむのを待ちます。もし膨らまない場合は手術になる可能性もあります。
(じっとAさんの目を無表情で見つめる)。
医師:症状が劇的に進んでいる様子ではないので、このまま自然治癒する可能性もあります。
(じっとAさんの目を無表情で見つめる。しばし無言の時間が流れる)
患者:(??? これは質問なのか? 二つのうちどちらかを選べということか? 恐る恐る)入院をしたほうがいいんですか?
医師:はい(無表情のまま)。
患者:(釈然としないながら)分かりました(「分かったのかよ!」と自分に突っ込みを入れながら)、入院します。
医師:ではこの用紙に住所とお名前などを記入してください。
患者:(記入を始めるが、気を取り直して)入院しないという選択肢もあるんですか?
医師:はい。その場合は症状がどんどん悪くなって危険な状態に陥る可能性があります。
(あくまでも無表情でじっとAさんの目を見る)
患者:(「最初っからそう言えよ」と思いつつ)そうですか。
医師:(別の用紙を取り出し、文面をボールペンでなぞりながら)これから処置を行いますが、処置にあたっては肺を突き破る可能性があります。
(あくまでも無表情)
患者:はぁ??? 突き破るんですか? 肺を?
医師:突き破らないように気をつけますが、絶対にミスが起こらないとは言えません。
(あくまでも無表情)
患者:(「そんな自信のないことでどうする!頑張ってくれよ」と心で叫びつつ)はい、分かりました(「分かりたくないけど、ここでゴネても先に進めないし」)。
医師:局部麻酔をしますが、ごく稀に合併症を起こす可能性があります。
患者:(聞いてるだけで具合が悪くなりそうなので)はいはい分かりました。肺を突き破るかもしれないし、麻酔で合併症を起こすかもしれないんですね。そのような時はすぐに対応してもらえるような体制は整っているんですよね。
医師:はい。スタッフも揃ってますから、きちんと対応できます。
患者:(「まだ死にたくないんだからホントに頼むよ」)よろしくお願いします。
医師:ではこの用紙を受付に持って行って、入院の手続きをして戻ってきてください。
(手続きをして戻ってくると、看護師さんが処置の準備に忙しく立ち働いている。医師は何か書き物をしているので、Aさんは手持無沙汰でイスに座っている)
医師:(顔を上げ、Aさんの目を見てあくまでも無表情のまま)入院になります。
患者:(「だから今手続きしてきたんだよ」と椅子からずり落ちそうになりつつ)はい、知ってます…。
医療のプロフェッショナルは演技も上手?
この医師の名誉のために言っておくと、決して人柄が悪いわけでも技術に自信がないわけでもないようです。その後の処置はきちんと上手にこなしてくれたそうです。しかし、万一、結果が悪かった場合、「リスクの説明はしたし、医療は不確実なので一定の確率でミスは起こります」と無表情で答えるのでしょうか。単にコミュニケーションの取り方が上手ではないのか、冒頭の医師が言うように、患者さんからの罵詈雑言にさらされているうちに、自分の心を守るためにそのような対応になってしまったのか、真実は分かりません。
ときどき「モンスターペイシェントなんて大げさに言うけれど、そんな患者はごく僅かでしょ」との意見もあります。しかし確率の問題ではなく、たとえ少数であろうと、執拗な、あるいは激烈なクレイマーの存在は医療従事者の心を冷やし、普段の医療活動に及ぼす影響は測り知れないものがあると思われます。モンスターペイシェントの存在は医療現場を疲弊させ、医師に向かう刃は医療崩壊という形で確実に私たち自身に向かってきます。
多くの医療者は、「患者さんの『ありがとう』の一言で救われて、また頑張ろうという気になる」とおっしゃいます。医療者と患者は対立関係ではなく、病を治すという共通の目標を持つパートナーです。医療者も人間ですから、自分を敵対視する患者に対して誠心誠意対応することは難しいでしょうし、患者自身の負の感情も病の治癒にはマイナスでしょう。分別をわきまえて、賢く医療を受ける知恵を患者が身に付けることが、自分の身を守る上でも大切なのは言うまでもありません。
それでもなお、まずはプロフェッショナルである医師が、コミュニケーション能力も医療技術のうちと心得、患者を安心させたり心穏やかにさせる「演技力」、誠心誠意患者のために尽くしている「フリ」を身につけていただきたいと切に願います。患者は毎日患者の練習をするわけにはいきませんので。
生活設計塾クルー 内藤眞弓
「日経マネーDIGITAL」FP快刀乱麻より (c)日経ホーム出版社 日経マネー編集部
おすすめ情報
最新コラム
|
人気ランキング
コラムタイトル | 平均スコア | |||
1. | 預金者を無視した金融商品と銀行の対応! - 11月21日 | 8.58 | ||
2. | 大荒れの市場、なぜ相場は急激に変動する? - 11月20日 | 7.36 | ||
3. | 「リーマン・ショック」にとらわれ過ぎず・・ - 12月17日 | 7.23 | ||
4. | 本当にお金を借りてまで自分の家が必要ですか - 12月19日 | 6.95 | ||
5. | 使える?来年からの住宅ローン控除の改正案 - 1月5日 | 6.79 |
注目情報
PR
最新コラム
- 世界経済、癌なの?インフルエンザなの? - 1月8日
- 相場予想、過去のデータはどれくらい役に立つ - 1月6日
- 年金は毎年目減りしている! - 1月6日
- 『お年玉』、親子でお金の活かし方を考える - 1月5日
- J-REITは雑種?その強みと弱みとは? - 1月5日