連載
郷好文の“うふふ”マーケティング:
ノートカバーは屈折心理をカバーする――コクヨ「SYSTEMIC」 (2/2)
[郷好文,Business Media 誠]
なぜ人はノートカバーを買うのか?
SYSTEMICの発売日は2008年11月11日。買い遅れてしまった私だが、買う理由を別商品との比較からひねり出した。比較した商品の1つは、スライダー付きノートカバー「Storage.it」。ポケットに筆記具や消しゴム、ポストイットを収納できる便利さがいい。A5で882円の安さも魅力だし、機能に徹するならこれがいいのだが、デザインでSYSTEMICが上回る。
もう1つは、ガラスケース越しに眺めるような高価な革ノートカバー。例えばMONTBLANC(モンブラン)の皮ノートカバーは垂涎(すいぜん)の一品で、本体4万2000円、リフィルノートでも4000円以上。でも、ノートカバーの立派さに位負けして自分の軽さがますます強調されそう。ならば、機能とデザインとお手軽さがそろったSYSTEMICを買おう。
ノートカバーを購入した後、我が購買心理の葛藤をはんすうした。「何のためにノートカバーを買ったのだろう?」
「自分で中身を決めて、ノートを合理的に使えるじゃないか」と、私の中の“機能屋”がこう言う。一方で「オレは安っぽくないぞ。ムキ出しで使うほど無骨じゃないぜ」と、私の中の“スタイル屋”はそう言う。
しかし本当はそうではない、隠すとか隠さないというところに消費の本質がありそうな気がする。ノートカバーに限らず、屈折した心理が消費の原動力となっているのではないか。
屈折心理のポジショニング
例えば「便座カバー」。保温便座が普及する前は、冬にカバーなしで座るとお尻が冷えて、ありがたさが下半身にしみた。だが、便座のカバーは必要だが、フタにカバーは必要なのだろうか。これは実利機能(便座カバー)と見栄心理(フタカバー)をセットにして、単価をアップさせている好例だろう。
妄想だが「少年マガジンカバー」というものがあったらどうだろう。朝っぱらから通勤電車で大の大人が一心不乱にマンガに読み耽る風景に眉をひそめる人は多い。ならば、少年マガジンカバーを開発したら、大人のマンガ読みはカバーするだろうか?
いや、きっとカバーしないに違いない。カバーしてもマンガ本の分厚い特徴は隠し通せないし、230円の本にいくらのカバーなら買うのか疑問だし、隠す時間も短い(1冊30分くらい?)。そもそも読者自身は何ら包み隠さずに、エへへと読んでいる。つまりマンガ読みは何ら屈折しておらず、「朝からマンガってどう?」と思う人の方が屈折しているのだ。
どんなカバーが屈折しているのだろうか。ティッシュボックスカバーはムキ出しよりもある方が落ち着く。ドアノブカバーには優しさを感じる。だが、iPodカバーは機能欲求とスタイル欲求が絡まりあって屈折している。
そこで、屈折心理をポジショニングしてみた。タテ軸は用具の美の探求心レベル、ヨコ軸は屈折心理レベルだ。
少年マガジンカバーは用具の美もなく屈折もないので左下。ティッシュボックスカバーやドアノブカバーは低屈折で用具の美意識が高い。用具の美も屈折度も高いのが右上の“高屈折ゾーン”で、便座カバーは便座用とフタ用で屈折度合いが異なるので真ん中。
カバーには用具の美と無用の美がある。前者は保護や快適さなど機能上のニーズ、後者はこだわりやデザインニーズ。衣を何枚も重ねる十二単(じゅうにひとえ)など、日本人はかぶせることへの美意識が際立っている。そのウラには見栄やこだわり、世間体や恥の意識といったナマっぽい屈折した心理があるのだろう。屈折をどう料理するかが、商品開発のポイントにもなる。
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