東京都墨田区のホテルが昨年12月、指定暴力団住吉会系の関連企業がホテル内で計画していた忘年会について、規約に盛り込んでいた「暴力団排除条項」を盾に、開催5日前に中止に追い込んでいたことが8日、分かった。忘年会は暴力団の資金集めの手段にもなっており、暴排条項が威力を発揮して資金集めを防止した格好だ。一方、条項を設けていなかったことで警察による“厳重警戒”につながったケースもあり、警視庁はホテルを含め幅広い業界に条項の早期策定を呼びかけている。
警視庁組織犯罪対策3課などによると、墨田区のホテルで昨年12月上旬、住吉会系のフロント企業が、地元の土建業者や不動産業者ら約200人を集めて忘年会の開催を計画した。忘年会は同区周辺で例年開催されており、参加費1万円のほか、「ご祝儀」として5万〜10万円を支払うことが慣例だった。
こうした忘年会やパーティーは「義理かけ」と呼ばれ、暴力団の資金集めの手段になっている。祝儀の支払いを嫌がった地元業者から相談を受けた警視庁が調べた結果、主催者がフロント企業であることが判明した。
ホテルの規約にはすでに、暴力団や関係者の利用を断ることができる暴排条項が盛り込まれていたため、開催5日前に宴会の契約を解除して中止に追い込んだ。キャンセルの際、ホテル側が条項を突きつけると、組関係者は「やっぱりだめですか」と素直に引き下がったという。
一方、新宿区の有名ホテルで昨年11月下旬に開かれた結婚披露宴は、新婦の父親が指定暴力団山口組系組長だった。「さらに出席者として山口組の直系組長が出席する可能性があった」(警視庁捜査員)
ホテルは昨年5月、宴会利用規約に、暴排条項を盛り込んでいた。しかし、披露宴の契約は2カ月前の3月。契約時は父親が組長とは知らず、打ち合わせで語気を荒らげるような場面があったことから警視庁に相談し組長と判明したが、契約後の条項策定だったことから、開宴を中止させることができなかった。
ホテルと新婦側が交渉を重ねた結果、「新婦の父親である組長は出席し、直系組長ら他の暴力団組員は出席しない」という妥協案が成立した。ただ、披露宴当日は警視庁戸塚署員らが検問を実施し、ホテルに進入するすべての乗用車に目を光らせる事態となった。
警視庁幹部は「不測の事態が起こるかもしれず、検問を実施した。大きなトラブルはなかったが、暴排条項が少し早くできていれば、スムーズに中止させることができただろう」と振り返る。
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■「偽装離脱」対策の課題も
暴力団排除条項を武器にした“暴力団包囲網”が形成されつつある中、暴排条項対策ともいえる組員の「偽装離脱」問題が懸念されている。
「暴力団を離脱したという書面と組長が離脱を認めた証明があれば、それだけで『組員ではない』ということになる」(警視庁捜査員)。本当に暴力団を抜けたことの証明のためこうした書面を持つ者もいるが、偽装離脱はそれを逆手にとって一般企業と取引をしやすくする行為だ。
実際、「離脱届」を持ちながら、組事務所に出入りしている者も少なくない。こうした偽装で、ホテルや公共施設で宴会などを開催され、多額の資金集めに直結する可能性もあり、警察当局は警戒を強める。
一方、条項を設けていない一般企業や地方自治体はまだまだ多く、暴排意識の浸透も課題だ。
警察庁の外郭団体「全国暴力追放運動推進センター」(東京都千代田区)などが昨年11月に発表した調査によると、契約書や取引約款に暴排条項を定めた企業は22%にとどまった。今後導入する予定のない企業も2割近くある。
警視庁幹部は「地方自治体の物品納入など、暴排条項導入が進んでいない分野はまだ多い。『うちは暴力団と無縁』と思いこまずに積極的に導入してほしい」と呼びかけている。
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