偽ユダヤ人 No.5

 

それゆえ日本人が国際人となるためには、このユダヤ間題というタプーを欧米人達が理解しているように理解しておかなければならない時期が来ているのである。欧米人達が宗教的衝突の中で血を流したことは残念である。日本人がそれを真似る必要はどこにもないが、真実を知っておくことは今の日本およぴ日本人にとって最も大切なことではないか。

ケストラーはユダヤのタブーに桃戦した

本書の著者アーサー・ケストラーはハンガリーで生まれたアシュケナージ・ユダヤ人である。彼は日本でも有名な『スペインの遣書』を著わし、また他にも『真昼の暗黒』『黄香の酒場』『見えない手紙』『夢遊病者』『コール・ガールズ』、さらにニューサイエンスの『機械の中の幽霊』『ホロン革命』などの著書がある。彼は一九○五年プダペストで生まれた。一九一三年、ウィーン大学に入学、その頃からシオニズム政治に関与し、一九二六年にはパレスチナを訪問してすでにシオニストとしての活動を開始している。シオニズムというのはユダヤ人たちが住んでいたシオンの丘、すなわち現在のイスラエルを奪回してそこに自分達の国を造らなけれぱならないという運動である。

この頃、先祖がカザール人であるアーサー・ケストラーですら、シオニストとして運動に熱心であったことがわかる。やがて彼はその民族の歴史の真実を知り、本書を書くようになるのである。一九四五年には『ロンドン・タイムズ』の駐パレスチナ特派員として建国前のイスラエルに滞在し、一九五六年にイギリス王立文学会特別会員となり、一九六四年から一丸六五年にはカリフォルニアのス
タンフォード大学の行動科学研究所の特別会員ともなっていた。

彼が本書を世に出したのは一九七七年であった。それから数年たった一九八三年、彼とその妻は謎の死を遂げた。さらに不思議なことは、彼の死を報じた新聞はその業績とともに彼の多くの著書を紹介したが、本書は著書名の中には挙げられていなかったのである。しかし、この本が初めて世に出た頃には『ニューョーク・タイムズ』でさえ次のように賛辞を贈っていた。

「ケストラーの優れた書物は非常に興味深いものである。その手腕、優雅さ、博学などはもちろんのこと、それにもまして著者そのものがそれらのすべてを駆使して真実を導き出そうとした努力、さらにその結論には大いに敬意を表するに値するものがある」『ウォール・ストリート・ジャーナル』も同じように称賛していた。「興味を持つためにユダヤ人であることが何も必要条件とはならない。・…今日のョーロッパのユダヤ人達は本当に聖書が言っているセム系のユダヤ人なのか。それとも大多数は改宗したカザール人の子孫なのか。このコンパクトで興味をそそる本は・…・この問題に潜んでいる悲劇的かつ皮肉な結論を暗示している。・…こそれゆえに人々の心を魅了してやまないであろう」
本書によって世界の焦点・ユダヤ川イスラエルの真相が見えてくる
 

今日、イスラエルに対するパレスチナ人達のインティファーダ(蜂起)
が世界の新間を賑わしている。
銃器によって武装するイスラエル兵士に対し石を投げて応戦するパレスチナ人達のインティファーダが始まってからすでに満二年が経過した。その結果死者は八○○人以上になり、負傷者は数万人に及んで一九四八年五月、イスラエルが建国されるまで、すなわちユダヤ人達がそこは自分達の土地だと主張するまで、パレスチナ・アラプ人達はその地で平和に暮らしていた。

しかし戦争が始まり、多くの人々がパレスチナの地を追われ、ある者はイスラエルの占領地に住まざるを得なくなったのである。一九六七年の六日戦争においては、さらに多くのパレスチナ人達が先祖の地を追われてョルダンさらにはシリアやレバノンヘと移っていった。四回にわたる中東戦争の結果、またあらゆる中東和平案においても、彼らの苦悩と離散を解決することはなかった。それどころかアシュケナージ・ユダヤ人たちの地下水脈で繋がれた世界的なネットワ−クは、豊かなる水をイスラエルに注ぎ続けたのである。パレスチナ人達はまざに絶望の状態にある。

しかし本書は、そのイスラエル建国がいかに不幸なものであり、ユダヤ人達のやり方がいかに傲慢極まりないものかを示すものでもある。ユダヤ人達は建国の根拠としてバルフォア宣言を持ち出すこともあるが、多くの場合は自分達の先祖がこの地に住んでいたから自分達もここに住む権利があると主張する。スファラディ・ユダヤ人がそう言うのならわからないわけでもない。しかしアシュケナージ・ユダヤ人、すなわちもとは中央アジアにいたカザール人がなぜそのように主張するのか。彼らは主張するだけでなく、武力を行使してパレスチナ人達を追い払った。彼らの先祖は今のイスラエルの地に住んでいたわけではまつたくないのに、である。

今後ますます中東間題、特にイスラエル・パレスチナ間題が世界の焦点となってくるだろう。ソ連から吹き出したペレストロイカの風は東欧の国々を大きく変化させ、いわゆる新しい時代、世界平和への道が始まっているかのようにも見える。しかし世界最大の難問は何と言っても小さな地、しかし三大大陸の要でもあるこのパレスチナ問題を抜きにして解決することはない。複雑極まりないパレスチナ問題に明確な解答を与える本がこの『第十三支族』なのである。それゆえにアーサー・ケストラーの包み隠すことなき研究と告白は日本にとっても、今そしてやがてのために最も必要なものなのである。国際人になるためにはタプーを知り、それを常識として包み込んでいくことである。
 

参考文献:
「ユダヤ人とは誰か」第13支族カザール王国の謎、アーサーケストラー著
三交社