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社説

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ガザの悲劇―いつまで放置するのだ

 パレスチナ自治区ガザで、国連の難民救済機関が運営する学校3カ所がイスラエルの戦車に砲撃された。避難していた住民ら50人近くが死んだ。現地からは子供たちの痛ましい映像が送られてくる。

 イスラエル側は「学校からハマスの迫撃砲が撃たれたことへの報復」と説明した。それが事実だとしても、一般住民が大勢避難している公共施設を砲撃すればどんな結果になるか、分かっていたはずだ。

 一般人が多数巻き添えになるこうした攻撃は、国際法が禁じる非戦闘地域や民間人への無差別攻撃ではないのか。虐殺と同然の非道さである。国連の存在意義さえ問われる事態だ。

 ガザ市に隣接するジャバリヤ難民キャンプの学校では40人が死んだ。1平方キロほどの地域に10万人以上の難民が住む過密地だ。キャンプとはいえブロックを積んだ4、5階建ての住居がひしめく。砲撃を受ければ建物が崩れる。逃げ場となるのは、校庭を持つ国連の学校ぐらいしかない。

 国連パレスチナ難民救済事業機関の現地代表は、市民や子どもを守るために、早く停戦の実現に動く責務が国際社会にあるはずだと訴えた。

 サルコジ仏大統領は、負傷者の救出などのため48時間の緊急停戦を提案した。だがイスラエルは、ガザを支配するイスラム過激派ハマスがロケット弾攻撃の能力を持っている限り妥協できない、として拒否した。

 イスラエル軍はハマスの武装部門と戦っているというよりは、政治部門や社会福祉組織も持つハマスの殲滅(せんめつ)を目指し、ハマスを支持した一般のパレスチナ人に懲罰を与えようとしているとしか思えない。

 このままでは民間人の犠牲が増え、地獄絵が広がる。イスラエルはきのう表明した1日おき3時間の攻撃中断ではなく、全面停止をせねばならない。

 ガザは07年夏からのイスラエルによる経済封鎖で、もともと食料が不足し、病院では麻酔も医薬品も底をついている。今回の攻撃で事態はさらに危機的になっている。これを見過ごすわけにはいかない。

 イスラエル、パレスチナ人勢力の双方に影響力を持つエジプトのムバラク大統領が停戦仲介に動き出したのは朗報だ。人道危機に対応するためとりあえず期間限定の即時停戦を呼びかけた。欧州諸国はこれを歓迎している。

 日本政府も武力行使の停止を求めてはいる。さらに、イスラエルなど当事者たちを説得するための特使を送ったり、ハマスを支援するシリアやイランなどに働きかけたり、もっと積極的な外交を展開すべきだ。

 マヒ状態の国連をどう動かすかは、今月から安全保障理事会の非常任理事国になった日本の責任でもある。

企業とスポーツ―地域と連携し将来像を

 未曽有と形容される景気の悪化に、スポーツも無関係ではいられない。チームの運営や、スポンサーから手を引く企業が相次いでいる。

 90年代のバブル経済の崩壊から10年余りの間に、野球、陸上、ラグビー、バレーなどの名門、強豪から300を優に超えるチームが消えた。

 それから10年もたたないうちに再び荒涼とした光景が広がり始めている。

 モータースポーツではホンダがF1撤退を表明した。世界ラリー選手権からはスズキと、スバルの富士重工業が撤退を発表し、日本車はこのシリーズからすべて姿を消すことになる。

 アイスホッケーの名門、西武も今季限りでの解散を発表。アメリカンフットボールの強豪オンワードも、今季で30年近い歴史に幕を閉じる。

 ホンダでいえばF1のチーム運営には年間500億円以上かかるという。撤退との経営側の決断にも無理からぬところはある。その一方、胸にすとんと落ちない撤退や休廃部もある。

 社員の士気高揚や福利厚生を目的に始まった戦後の企業スポーツは、高度経済成長とともに拡大・充実し、各競技の頂点を支える仕組みとなった。

 結果として企業の広告、宣伝の色が強まり、それがバブル経済の崩壊による休廃部ラッシュの導火線にもなった。今回も広告費と同じように削られているケースが多いのではないか。

 そんな状況のもと、現場では従来と違う流れが見え始めている。

 アメリカンフットボールで来季のXリーグ昇格を決めたブルザイズ東京は、年間数千円から10万円程度の会費を負担する「市民株主」によるクラブづくりを進めてきた。純粋の企業チームが減り続けるこの競技では、選手側が新しい仕組みを模索し始めている。

 かつてのアマチュア的な企業スポーツを再評価する動きも出てきた。社会人野球の熊本ゴールデンラークスは地元のスーパーマーケットが親会社だ。選手は全員が売り場に立つ。

 競技のレベルが上がり、企業所属でも競技に専念する選手が増えてきた流れに逆行している。しかし、このチームの選手には現役引退後の不安がない。創部3年で、すでに2年連続で都市対抗に出場。「県民に愛されるチームに」と企業名は外し、買い物客の勝手連的なファンも生まれている。

 この苦境を、スポーツと企業と地域社会の関係を再構築する契機にしよう。人材も必要だろう。大学ではスポーツビジネスやマネジメントを学ぶ学科などが、ここ数年で急増している。教育との連携も大いに深めたい。

 ところが行政は、学校・プロスポーツが文部科学省、企業スポーツは経済産業省と担当が分かれている。縦割り構造にメスを入れ、総合的なスポーツ振興を考えるべき時にきている。

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