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2009-01-08 16:55:07 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙-JCO臨界事故被ばく線量の不確実性について-

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T先生



茨城県那珂郡東海村でJCO臨界事故が発生したのは、1999年9月30日10時35分頃でしたから、今秋で、まる10年になります。


私は、事故直後、新聞社からの情報で、概要を知ることができました。しかし、被ばく線量について、信じがたい数値を耳にし、何度も聞き直しました。桁の違う値に、"ありえない"との直感が働いたためです。最初は、記者に理解力がないために、"おかしなことを言っている"と受け止めていましたが、何度聞き直しても、その数値は、放射線医学総合研究所が公表したものであることが分かり、受け入れらずを得ませんでした。それでも、事故後、わずか約2時間で評価したことに、その手順・方法・不確定要因に、疑問を持ちました


いちばん多く被ばくした従事者の被ばく線量は、16-20Gy・Eq(等価吸収線量、吸収線量(Gy)に放射線の種類によって決まる荷重係数をかけた値)であり、Gy・Eq=Svであるため、16-20Sv(ひとむかし前の単位では1600-2000rem、なお、放射線従事者の年間被ばく線量は5rem以下です)としてもよく、これまでの、広島・長崎被爆疫学調査から、6Sv(600rem)以上が致死量になっているため、その時、16-20Svの値というのは、ひとりの人間を約3回殺せる値であるということがわかりました。そして、大変なことが発生してしまったと沈痛な思いでした。それでも、重い気持ちをひきずって、私は、その日だけでも、新聞・テレビからの数十件のインタビューに答えました。


放射線従事者は、作業中に、ポケットチェンバーとフィルムバッヂを携帯することが義務づけられていますが、それらは、通常時の比較的少ない被ばく線量の測定はできるものの、臨界事故の時のような、極端に多くの被ばくの場合には、測定上限をはるかに超えてしまい、何の役にも立たなくなってしまいます。原子炉の炉心の中性子やガンマ線のような大線量の測定には、唯一、任意の金属の任意の核反応を利用した"箔放射化法"が利用されます(たとえば、熱中性子に対し、Au197(n,γ)Au198等、1MeV以上の高速中性子に対し、Fe54(n,p)Mn54等)。


JCO臨界事故の被ばく線量は、"人間放射化法"により、"中性子エネルギースペクトル"を考慮した上で、吸収線量(Gy)を評価し、急性放射線症の荷重係数をかけて、最終的な、等価吸収線量(Gy・Eq=Sv)を評価しています。"人間放射化法"とは、血液成分のNa23の存在に着目し、Na23(n,γ)Na24(半減期15時間)反応で生成されるNa24の放射能絶対値から求めます(Na23(n,γ)の中性子断面積は、小さく、臨界事故のようなわずか数msecでは、わずかな放射能しか生成できません)。


しかし、この方法は、単純ではなく、まず、手順として、(1)患者から血液を採取、(2)1cc中の構成元素の個数密度を算出(標準的な人間に対してはすでに用意されています)、(3)Na24から放出される1.369MeVのガンマ線をゲルマニウム検出器で測定することにより1cc中の放射能を測定、(4)患者の全身の"中性子エネルギースペクトル"(標準的な人間に対してはすでに用意されています)を考慮して(3)の結果から全エネルギー範囲にわたる吸収線量を評価、(5)急性放射線症の荷重係数を利用して(4)の結果から等価吸収線量を評価となります


問題点は、(a)人間の体は、大部分が水であって、高速中性子は、水で減速されるため、"中性子エネルギースペクトル"は、人間の体格によって異なり、JCO臨界事故の時のように被ばく線量を短時間で評価する場合には、個別のものを計算できる時間がないため、標準的なものを利用せざるを得ず、そのことに起因する不確定、(b)Na24の放射能は、主に、臨界事故の短時間(数msec)、熱中性子と熱外中性子によって生成され(A(E,t)=∫σ(E)Φ(E)dE(1-exp(-λt)))、それによって評価される中性子束から、"中性子エネルギースペクトル"を考慮し、全エネルギー範囲の中性子に対する中性子束を評価しなければならないが、個別の人間を考慮した"中性子エネルギースペクトル"が評価されていないために、ここで大きな誤差が発生しやすく、放射能測定と"中性子エネルギースペクトル"から吸収線量を評価するのは、たとえるならば、像の尻尾の大きさから、像全体を推定するような暴論です。


(c)急性放射線症の荷重係数として1.7を利用していますが、それは、放射線医学総合研究所が蓄積した知識・経験とノウハウによるものでしょうが、1.7というのは、小さ過ぎます、(d)"人間放射化法"では、中性子被ばく線量しか評価できませんが、公表値には、ガンマ線被ばく線量も含まれているとされていますが、事故後、短時間では、核分裂の時に発生する中性子とガンマ線の割合から、ガンマ線による被ばく線量を推定し、加算しているものと推察されますが、そこでも、中性子の場合と同様、"ガンマ線エネルギースペクトル"の不確実性が伴うために、誤差要因になります


JCO臨界事故の被ばく評価法は、現象を物理で考えた場合、受け入れがたいこともありますが、現場で、短時間に、即刻対応できる方法としては、唯一、実用的なものと推察します。しかし、厳密な誤差評価をしたならば、意外と大きな誤差が推定されるでしょう(公表値は誤差が小さ過ぎます)。私は、核医学が専門でないため、核医学分野のノウハウに通じていませんので、今回は、このくらいの問題提起に留めます。



桜井淳

2009-01-05 17:42:08 stanford2008の投稿

桜井淳所長から東大大学院人文社会系研究科のH先生への手紙 -エルサレムの歴史的意味-

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H先生



新年早々、思いつくままに記してみます。


イスラエルは、和平交渉中であるにもかかわらず、昨年末に、パレスチナ自治区のガザ地区(イスラエル西部の地中海沿岸に面する一部地域)を空爆し、今度は、新年早々、空爆に支援されつつ、約1000台の戦車でガザ地区を攻撃・包囲しました。規模からして、それは、完全に戦争です。中東は、歴史的に見ても、戦争の絶えない地域です。背景には宗教の違いがあります。


歴史的に見れば、紀元前に、イスラエル王国が栄えた時期もありましたが、やがて崩壊し、その後、ユダヤ人が住むパレスチナとして、宗教的にも、重要な位置を占めてきました。しかし、1947年に、イスラエルが建国され、従来の住人の一部は、特別な地域(ガザ地区及びイスラエルとヨルダンに挟まれたヨルダン川西岸地区)に追いやられ、そこが今日のパレスチナ自治区になりましたが、あくまでも自治区に過ぎず、独立国ではありません。


たとえるならば、イスラエルがパレスチナ本家を乗っ取り、イスラエルとした国土の特定の地域に、従来の住人の一部を同一敷地内分家を作って追いやりましたが、宗教観と政治的条件の相違から、両家のいざこざが絶えず、親イスラエルの米国がクリントン政権の時に仲介し、和平交渉を開始しましたが、それから約8年経っても、まだ、共存条件は、達成できず、それどころか、過去にない大規模な戦争に突入しました。


むかし、いまのイスラエルの北部に、ナザレという村があり、イエスは、そこで誕生し、途中、紆余曲折はありましたが、やがて、ヨルダン川西岸を南下して、さらに、西に向かい、南部中央地区にあるエルサレムに向かいました。エルサレムは、宗教的に、歴史的に、宗教の聖地として、絶大な権力を有していました。エルサレムはイスラエルとパレスチナのヨルダン川西側地区の境界にまたがっており、イスラエルとパレスチナの共有地とされています。もちろん、両者とも、自身の物と主張していますが・・・・・・。イエスの"最後の晩餐"はエルサレムの城壁内の施設で行われました。そして、イエスは、翌日、城壁外のゴルゴタの丘で十字架刑になりました。


いまのイスラエルとパレスチナ自治区は、特に、エルサレムは、イエスに関係している、世界的にも、歴史的にも、絶対に犯すことのできない聖地ですが、それだけに、実際には、ローマ帝国の紀元前の時代から、もちろん、紀元後も、宗教上の権威の象徴として、激しい争奪戦が展開されてきました。十字軍戦争もそのひとつです。


いまのイスラエルとパレスチナの戦争を見ると、キリストへの視点からして、見るに耐えない蛮行であり、一日も早い解決がなされることを祈るばかりです。



桜井淳

2009-01-05 16:01:57 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙-広島爆心地とJCO臨界事故の被ばく線量-

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T先生



ひとむかし前までは、放射線に曝されることを"被曝"と記していましたが、形式的に、軍事利用と平和利用を区別するために、前者の原水爆の場合には"被爆"、後者の場合には"被ばく"としました。表題では、論点からして、JCO臨界事故にウェイトを置いていますので、"被ばく"としました。


いただいた資料(「「広島・長崎原爆線量評価新評価システムDS02に関する専門研究会」報告書」、KURRI-KR-114(2004))のp.196には広島爆心地の吸収線量(Gy)の計算値が表にまとめられています。広島に投下された高濃縮ウラン製原爆は、上空600mで爆発し、その時、真下の地上の位置を0mとして、水平方向に距離をとれば、距離(0-500m)と中性子(即発+遅発)吸収線量の関係は次のようになっています。


距離(m) 0 100 200 300 400 500

吸収線量(Gy) 34.5 32.0 25.1 17.5 11.1 6.48


:原爆の線量評価の研究者は、被爆線量を吸収線量(Gy)で記し、被曝線量評価の研究者は、被爆線量を吸収線量(Gy)に放射線の種類によって決まる"荷重係数"をかけた等価吸収線量(Gy・Eq)で記しています。JCOの等価吸収線量(Gy・Eq)との関係で議論するために、たとえ、両者の"中性子エネルギースペクトル"が異なっていても、ここでは、形式的に、放射線医学総合研究所がJCOの等価吸収線量(Gy・Eq)を評価した時に採用した中性子急性被爆症の"荷重係数"1.7を利用し、等価吸収線量(Gy・Eq)を計算するとつぎのようになります。


距離(m) 0 100 200 300 400 500

等価吸収線量(Gy・Eq) 58.7 54.4 42.7 29.8 18.9 11.0


事故調査報告書に引用されているJCOの等価吸収線量(Gy・Eq)は、ひちばん被ばくが多かった従事者の場合には、16-20(Gy・Eq)です。ただし、JCOの等価吸収線量(Gy・Eq)は、中性子の他、ガンマ線被ばく線量まで含まれているということですから、広島とJCOのそれらを直接比較することはできませんが、第ゼロ近似として比較すれば、広島爆心地の水平方向400mの位置での被ばく線量に匹敵し、つぎに、即発ガンマ線と二次ガンマ線まで考慮したガンマ線被爆線量は、ガンマ線の"荷重係数"が1のため、p.196の値がそのまま利用でき、52.7Gy・Eqとなります。ただし、両者の"ガンマ線エネルギースペクトル"は、異なるたるめ、直接比較することはできず、あくまでもひとつのめやすに過ぎません。よって、中性子だけなら、JCOは、広島爆心地の水平方向400mの位置に匹敵しますが、ガンマ線まで含めると、広島爆心地の水平方向700mの位置に匹敵します。よって、正確に表現すれば、JCOの臨界事故でいちばん被ばくした従事者の等価吸収線量は、広島爆心地の真下で地上の水平距離が数百mの距離に匹敵すると言えます。なお、Gy・Eq=Svです。


私は、JCO臨界事故当日の夕刻の日本テレビのニュース番組での現場中継の際、キャスターの質問に答え、「被ばく線量だけから判断すると、広島爆心地での被爆線量に匹敵する」と説明しました。私の記憶・判断は的確でした。



桜井淳

2009-01-04 09:10:09 stanford2008の投稿

「第15回モンテカルロ法による核燃料サイクル施設の臨界安全セミナー」開催案内

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「第15回モンテカルロ法による核燃料サイクル施設の臨界安全セミナー」開催案内



(1)主催 モンテカルロシミュレーション研究会(代表 桜井 淳)

(2)実施概要 (注意 今回は1日目のみ実施する。)


1日目(初歩的計算)

10:00-11:00 モンテカルロ法による臨界固有値計算に必要な基礎知識

11:00-12:00 MCNP-4C2インストール及び最も簡単な球体系での臨界固有値計算演習(将来、最先端の研究に利用する場合、セミナーで習得したインストール法により、最新版のMCNP-5を組織内で自身の責任でインストールして下さい。誰にでも簡単にできます。なお、MCNP-4C2利用には、管理機関の許可が必要ですので、RIST HPから利用手続きをしておいてください。)

13:00-14:00 JCO沈殿槽事故時U溶液体系及びその他の実施設臨界固有値計算演習

14:00-16:00 実施設模擬8種(Los Alamos Criticality Primerの演習問題)の溶液体系の入力作成及び臨界固有値計算演習

16:00-16:30 質疑応答

  

2日目(実際的実験解析)

10:00-16:00 各種TCA軽水炉燃料棒未臨界体系臨界固有値計算演習(指数実験値未臨界度0.630-0.999との比較)。TCA燃料棒配列体系17×17,16×16,14×14,11×11,8×8,17×11,17×5, 17×17-7×7,17×17,12×12,17×17-144,17×17-206(詳細は、桜井・山本「指数実験及びモンテカルロ計算により評価された未臨界度の比較」、日本原子力学会誌, Vol.40, No.4, pp.52-59(1998) 参照)。

16:00-16:30 質疑応答


(3) 計算演習担当者 桜井 淳(日本原子力学会「最適モンテカルロ計算法」研究専門委員会主査)。

(4) テキスト 当日配布

(5) 応募資格 パソコンでMCNPを利用した臨界計算をしたい者(大学院生歓迎)。

(6)定員 5名(一対一の面接方式での指導を行います。)

(7)実施日時場所 2009年3月31日(火)、水戸市民会館3F小会議室(水戸市中央1-4-1) 水戸市役所隣接施設(水戸駅南口徒歩5分)。

(8)申込先セミナー事務局(原子力学会HPのメーリングリスト送信済み資料の同題第16回開催案内参照)。

(9)参加費 10000円

(10)締め切り2008年3月27日(金)

(11)報告事項 持参PCのOSと処理速度(何GHzか)。


2009-01-04 08:57:24 stanford2008の投稿

「第17回モンテカルロ法による中性子遮蔽安全解析セミナー」開催案内

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「第17回モンテカルロ法による中性子遮蔽安全解析セミナー」開催案内―WW法最適ウェイト下限値推定法―



(1) 主催 モンテカルロシミュレーション研究会(代表 桜井 淳)
(2) 実施概要


10:00-11:00 MCNP WWG理論(衝突確率調整法含む)
11:00-12:00 MCNP-4C2インストール及び最も簡単な鉄球体系での計算演習(将来、最先端の研究に利用する場合、セミナーで習得したインストール法により、最新版のMCNP-5を組織内で自身の責任でインストールして下さい。誰にでも簡単にできます。なお、MCNP-4C2利用には、管理機関の許可が必要ですので、RIST HPから利用手続きをしておいてください。)

13:00-15:00 FNS 14MeV中性子の鉄深層透過問題(1m)計算演習
15:00-16:00 核分裂中性子の鉄及びコンクリート深層透過問題(1m)計算演習
16:00-16:30 質疑応答


(3) 計算演習担当者 桜井 淳(原子力学会「最適モンテカルロ計算法」研究専門委員会主査) 。
(4) テキスト 当日配布
(5) 応募資格 パソコンでMCNPを利用した中性子・光子遮蔽計算をしたい者(大学院生歓迎)。
(6)定員 5名(一対一の面接方式での指導を行います。)
(7)実施日時場所 2009年3月30日(月)、水戸市民会館3F小会議室(水戸市中央1-4-1) 水戸市役所隣接施設(水戸駅南口徒歩5分)。
(8)申込先 セミナー事務局(原子力学会HPのメーリングリスト送信済み資料の同題第16回開催案内参照)。
(9)参加費 10000円
(10)締め切り2003年3月27日(金)
(11)報告事項 持参PCのOSと処理速度(何GHzか)。

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