実現なるか、日本版メディカルスクール
医学部以外の学士号を取得した社会人らを対象とし、医師育成教育を4年間で集中的に行う「メディカルスクール」。北米で導入されているこのシステムが近年、日本で注目を集めている。昨年秋、日本精神科病院協会や日本病院会など4団体でつくる「四病院団体協議会」の「メディカルスクール検討委員会」が報告書をまとめ、卒後臨床研修で高い評価を上げている病院を母体とした大学院レベルの医師養成機関の創設を提言した。一方、東京都の「メディカルスクール有識者検討会」は、年度内の報告書作成に向けた話し合いを進めている。日本版メディカルスクールの今後の行方はいかに―。
【関連記事】
医局復活に賛成の病院、反対上回る
今年度診療報酬改定の影響「かなり厳しい」
メディカルスクール報告書を正式決定−四病協
医療政策のマニフェスト原案を紹介―民主
「とんでもない勤務医がいる」―メディカルスクール構想で山崎氏
■四病協の報告書の位置付けは「重要な資料」
「きちんとした報告書はこれが初めてだと思う」。昨年末に開かれた記者会見で、日病の山本修三会長はそう評価した。
四病協の報告書が示した提言は以下の3つだ。
▽4年間の大学教育課程修了者(学士)の中から、良き臨床医になりたいという強い意欲と一定レベル以上の学力を有する者を選抜し、4年間の医学教育を行う大学院レベルの医師養成機関(メディカルスクール)を創設する。
▽卒後臨床研修で高い評価を受けている病院を母体とする。
▽北米のメディカルスクールで採用されているカリキュラムを参考に、さまざまな教育背景を有する学士の特性を最大限生かした質の高いカリキュラムを採用する。
また、医学部の定員増を勤務医の増員につなげるためには、従来の医学部教育や卒後臨床研修の見直しが必要だとし、「よりよい臨床医を増やすという観点での医学部教育と卒後臨床研修との一貫性の確保」が重要だと指摘している。
メディカルスクールの利点としては、▽より優れた臨床医が養成される可能性が高い▽効率的で質の高い医学教育が可能になる―の2点を示した。
現在は、「単に成績が良いからという理由で、親や高校の教師に勧められて、18歳で医学部に入学する者が少なくない」ことを強調した上で、メディカルスクールでは強く動機付けされた、22歳以上の人間的に成熟した学生が多くなることを想定し、「より優れた臨床医が養成される可能性が高くなる」としている。さらに、入学者に幅広い教養が身に付いていることを期待し、それが優れた臨床医に不可欠な素養になるとまとめている。
山本会長は「中身としては良いものがまとまったと思っている」と述べたものの、「だからと言ってやりましょうという話ではない。いまの医学生の教育と臨床研修、それから専門医制度と、一貫性のある教育をどのようにやるべきかという検討の中で、一つの極めて重要な資料になった。そういう位置付けだ」とし、導入までにはさらなる議論が必要との認識を示した。
検討委員会は1月22日、外部の有識者らを招いたシンポジウムを都内で開き、その中で報告書の内容を発表する。■都のメディカルスクール構想は破綻している?
四病協より一足早い、一昨年8月に第1回会合を開いた都の「メディカルスクール有識者検討会」(座長=鴨下重彦・国立国際医療センター名誉総長)は迷走している。病院関係者の間では、「東京都のメディカルスクール構想はすでに破綻している」との声もある。昨年12月末に開かれた第7回会合では、鴨下座長が「都の案としてユニークなところがほしい。何だか一般論で終始している」と苦言を呈する場面もあった。
第7回会合では、事務局が整理した報告書の骨子案について委員が意見を交わした。
骨子案の大きなテーマとなった「医師養成のシステム」については、▽真に医師になる資質を持つ人材が医学の道に進めること▽グローバル時代にふさわしい臨床のリーダーを養成すること▽人間性を涵養し、全人的医療を実践する医師を養成すること▽基礎医学を踏まえた実践重視、臨床重視の教育を行うこと▽適正を欠く学生には進路変更が可能なシステムであること―など6項目が柱。
考えられる方策としては、(1)意欲と資質のある学生の選抜(2)教育システム(3)教育内容(4)研究体制―を示した。
具体的な内容について、(1)では面接や適正を重視した入学試験の実施や学生ローンの仕組みづくりなどが必要だとした。(2)では、4年間で医師を養成するカリキュラムの作成のほか、臨床実習では学生2人に対して教員1人程度が望ましいとした。また(3)では、欧米の大学との交流による海外実習などを挙げ、(4)では最先端の基礎医学や臨床研修体制の充実が求められるとした。
上記の方策実現に向けた手法と課題では、2つのパターンを考察した。
「専門職大学院型」とした米国をモデルとした場合は、学士を対象とした4年間の医学教育システムとし、卒業時に専門職博士の学位を授与する。
もう一方は、他大学などで2年以上の教養課程を修了した者を対象とし、3年次に選抜を行う「選抜型の4年制医学部」。前半の2年間で大学卒業の資格を与え、後半の2年間は適正のある学生に限定とした教育を行うとしている。
会合の中で鴨下座長は、「四病協の報告書では、医師不足に触れている部分が多いような印象を受ける。他の委員もそうだと思うが、(メディカルスクールと)医師不足を関係付けることには賛成できない」と述べた。
■約4割がメディカルスクールを「知らない」
メディカルスクール構想の議論が進む一方、現場の医療関係者が制度についてあまり知らないという実情もある。
このほど日病がまとめたアンケートの調査結果では、回答があった530の加盟病院のうち、全体の約38%にあたる199病院がメディカルスクールを「知らない」と答えた。また、「知っている」と回答した病院の中でも、四病協の検討会については「知らない」が全体の55%となった。さらに、医師の増員方法では、「医学部の定員増」を求める意見が全体の65%と最多で、「4年制のメディカルスクール」を選んだ病院はわずか22%だった。
「優秀な臨床医を育成したい」。その思いは四病協も都も同じだが、制度導入へのハードルは高い。四病協の報告書では、6年の医学教育を受けた者に国家試験の受験資格を与えると明記する医師法と、カリキュラムのあり方を規定している学校教育法の改正が不可欠だとしている。その一方で、導入に際しては、国民も医療者側も制度をきちんと理解した上で、しっかりとした議論を行う必要がある。
日本版メディカルスクールが成功するか否か―。22日の四病協の発表会を皮切りに、さらなる議論の高まりを期待したい。
更新:2009/01/08 10:30 キャリアブレイン
新着記事
日本にケアマネジメントを確立する―08年回顧 ...(2009/01/08 13:30)
実現なるか、日本版メディカルスクール(2009/01/08 10:30)
厚労省案Vs民主党案―周産期救急改善案(2009/01/07 21:56)
注目の情報
PR
記事を検索
CBニュース会員登録メリット
気になるワードの記事お知らせ機能やスクラップブックなど会員限定サービスが使えます。
一緒に登録!CBネットで希望通りの転職を
プロがあなたの転職をサポートする転職支援サービスや専用ツールで病院からスカウトされる機能を使って転職を成功させませんか?
【第43回】吉田万三さん(「後期高齢者医療制度の廃止を求める東京連絡会」代表) 野党4党が提出し、参院での可決後、衆院に送付されていた「後期高齢者医療制度廃止法案」が継続審議となり、来年の通常国会へ持ち越されることになった。同法案をめぐっては、政府・与党が「見直し」の姿勢を変えず、野党が「廃止」の一 ...
全国的な医師不足の深刻化を受けて昨年7月、医師が足りない医療機関に対する緊急的な救済措置として、国は「緊急臨時的医師派遣システム」をスタートさせた。医師確保が困難な病院からの依頼で、各都道府県が国に医師派遣を要請。厚生労働省での検討や調整を経て、対象病院に医師が派遣される仕組みだ。派遣期間は原則6 ...
WEEKLY
アクセスランキング
ランキングがバージョンアップ!
週間・日間ランキングの他に、スクラップ数ランキングやみんなの感想ランキングが新しく登場!!
>>ランキング一覧はこちら