地方議会の権限や情報公開を明確化する「議会基本条例」の制定が全国で相次ぐ中、都内では初めて多摩市議会が制定する見通しになったほか、文京区議会も具体的検討を始めた。しかし他地域と比べて動きは低調で、専門家は「財政危機や自治意識の高まりがないと機運が生まれにくい」と指摘している。【井崎憲】
議会基本条例は、「首長の追認機関に過ぎない」との批判や政務調査費問題で議会不信が高まり、会議規則や申し合わせ事項だった議会ルールを明確にして住民にも議会活動を公開しようと04年から各地で制定が始まった。早稲田大学マニフェスト研究所の集計では1月7日現在、32の議会で制定され、45の道府県と市町議会が制定を検討する大きな潮流となっている。
制定された条例の多くは、議決事項の追加による議会の監視機能強化や、議員の質問趣旨を確かめるために執行部の反問を認めたり、情報公開のため住民への議会報告会の開催を定めている。
多摩市議会は「定数削減など目に見える改革以外に、議会のコンセプトを明確にする必要がある」として、政策機能強化や討議の活発化、市民参加を柱に条例案の骨子づくりを進める。3月以降に条例案を提出し、09年度中の制定を目指す。
これに続く文京区は今年度から議会運営委員会が検討を始めた。次期統一地方選(11年)までの条例制定を目指すことで各会派は意思統一しているが、条例内容の議論はこれから。議運の白石英行委員長(自民)は「議決権についても、自らの責任が重くなるため会派によって意見の違いはある。しかし改選前に条例を使って検証もしてみたいので地方選前年までに制定させたい」と話す。
一方で他の特別区の動きは乏しい。新宿区議会は議会改革の一環で先進事例を調査しているが、「各区議の意見を出してもらっている段階で、制定が前提ではない」(議会事務局)という。
早大マニフェスト研の草間剛研究員は「制定自治体は都市部以外の自治体が目立つ。それは、議員と住民の距離が近く、財政危機を機にチェック機能を問われた議会が住民との関係や自らの役割を見直していった結果。その点、都内は財政的に恵まれ、地方自治の意識もそれほど高くなく、制定の動きがにぶいのではないか」と話している。
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◆議会基本条例を制定した地方議会◆(早大マニフェスト研調べ、09年1月7日現在)
<04年>
福島県須賀川市議会
<06年>
北海道栗山町議会
神奈川県湯河原町議会
三重県議会
<07年>
三重県伊賀市議会
北海道今金町議会
岩手県一関市議会
島根県出雲市議会
茨城県鉾田市議会
京都府京丹後市議会
鳥取県南部町議会
島根県邑南町議会
北名古屋市議会
<08年>
宮城県松島町議会
山形県庄内町議会
埼玉県ときがわ町議会
北海道知内町議会
大阪府熊取町議会
福島県会津若松市議会
福島県議会
神奈川県大井町議会
福島県大玉村議会
鹿児島県薩摩川内市議会
千葉県松戸市議会
岩手県議会
大分市議会
福岡県久留米市議会
神奈川県議会
松江市議会
長崎県大村市議会
徳島県北島町議会
滋賀県東近江市議会
〔都内版〕
毎日新聞 2009年1月8日 地方版