政府の経済財政諮問会議が二〇一一年度までに財政再建を目指す従来の目標を事実上、断念した。空前の規模で景気が落ち込む中、やむをえないとはいえ、規律維持の重要さに変わりはない。
政府はこれまで国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を一一年度までに黒字化する目標を掲げてきた。五年間にわたる歳出削減のめどを示した「骨太の方針二〇〇六」も、毎年夏の概算要求基準(シーリング)も同じ考え方を基に作られ、黒字化目標は財政再建の大きな「旗印」でもあった。
世界的に広がる景気悪化を受けて、政府が来年度予算案で大幅に歳出を拡大したのは、非常時対応として容認せざるをえない。まずは、目前の失業と倒産を防ぐことが政府の最重要課題である。
そうであっても、長い目で見れば、財政規律の維持は日本経済にとって不可欠である。国と地方を合わせて約七百八十兆円に上る長期債務を放置すれば、長期金利の上昇圧力が高まり、経済活力は衰退しかねない。
与謝野馨経済財政担当相は会見で「(財政健全化の)目標自体は、持っておく必要がある。随分ぼろの旗になりましたけれども、立てておく」と語り、達成は困難だが努力目標として掲げる考えを示した。むなしい気分も残るが、ないよりましともいえる。
この際、ぜひ見直すべきであるのは歳出改革だ。歳入については、与謝野経財相と麻生太郎首相の肝いりで「三年後の消費税引き上げ」を目指した税制改革の中期プログラムを策定した。
歳入改革を明言する一方、歳出については、ばらまき状態を容認するようでは財政規律は維持できない。抜け穴になりがちな補正予算のあり方や巨額の埋蔵金が眠っていた特別会計の見直し、一般会計と特別会計を合わせた国庫全体の透明性確保など、歳出面でも改革すべき課題は多い。
政府は歳出増圧力にさらされているからこそ、予算編成の手法全体を抜本的に見直すべきだ。
定額給付金をめぐって、政府は高額所得者も受け取るよう促す姿勢に転換し、再び方針が迷走し始めた。そもそも給付金は弱者救済の社会政策なのか、景気刺激の経済政策なのか、政府の考え方は一貫せず、首相の態度も朝令暮改そのものだ。
貴重な税金が場当たり的に使われるようでは、財政再建は遠のくばかりである。
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