石破茂農相がコメ減反について新年度にも廃止を含め見直すことを表明した。実現には減反継続でコメ価格維持を主張する勢力の説得など難問も多いが、口先で終わらせてはならない。
「食糧安全保障は国家存立の基礎だ」「タブーなしで国民的議論を巻き起こしたい」。日本の自給率は先進国中最低の40%。農相発言は厳しい現実を見据えてのことだろう。
農家の平均経営面積は北海道が十九ヘクタールを超えているが、都府県は一ヘクタール程度と零細だ。農業従事者の高齢化も進み、三百十万人のうち六割を六十五歳以上が占める。後継者の育成は待ったなしだ。
減反は米価を維持するため一九七〇年代から始められた。しかし、日本は世界貿易機関で進行中の自由化交渉で700%を超えるコメの関税を大幅に引き下げるよう迫られており、減反では価格維持が難しくなってきた。
政府はコメ市場を開放した九〇年代のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)を機に減反と距離を置き始め、価格形成を市場に委ねるコメ政策や、農地集約で経営効率化を図る大規模農業優先へとかじを切った。
ところが一昨年、六十キログラム二万円を超えていたコメが合理化策などで一万四千円前後に値下がりすると、備蓄米の買い増しによって価格を下支えする事実上の政府介入に逆戻りした。政府が目指す大規模化は立ち往生している。
農相は減反をどう見直すのか。しばしば欧州連合(EU)の所得補償制度が参考例に持ち出される。これは農家に補助金を与えて農家を守り、食糧安全保障を強固にする政策だ。
これを日本のコメに当てはめると、安い輸入米と国内産米との価格差を財政資金で埋め合わせてコメ農業を守り、育成するものだ。
減反を廃止すれば国内産米の値下がりが見込めるので、消費者には輸入米と同水準の値段で買える利点が生じる。しかし、この所得補償は巨額資金を要し、納税者の理解が欠かせない。所得補償で日本農業を育成、継続していくかは、結局は納税者である国民が脆弱(ぜいじゃく)な農業の実態を理解し、いかに支援するかにかかっている。
日本は昨年、世界で頻発した食料争奪をよそに「食料危機でも減反」に突き進んだ。海外の目に奇異に映る農業から脱皮するためにも、食料不足に備え農業支援への国民合意をまず築くべきだろう。
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