景気失速の影響で、今年は雇用情勢の一段の悪化が避けられない情勢だ。昨年11月の完全失業率は3.9%と極めて深刻という状況には至っていない。だが鉱工業生産の急激な落ち込みなどから判断すると年央にかけ失業者が増える恐れは強い。
まさに雇用激震の年になる。それに備えて国や地方自治体、また経営者と労組団体は総力を挙げて対策を考え、実行しなければならない。
派遣規制では解決せぬ
昨秋以降に目立ってきた派遣など非正規社員の失業問題に対する短期の対応策と、新しい雇用慣行・制度を整える中長期の対応策を組み合わせて実効性を高めることが必要だ。
景気の落ち込みの影響が強く出たのが電機、自動車など輸出型の製造業で働く派遣社員や期間工だ。雇用調整のしわ寄せが非正規社員に集中しているという見方が強まり派遣事業への規制強化が検討され始めた。
年明け後、舛添要一厚生労働相が将来は製造業への派遣を制限する考えを表明した。民主党など野党4党も製造業派遣の規制を盛り込んだ法改正案を今国会に出すという。
製造業への労働者の派遣事業が解禁された2004年以降、各地の製造現場では直接雇用の期間工などを派遣に置き換える動きが広がった。舛添氏の考え方、野党の案ともに細部は不明だが、04年以前の状態に戻すことを狙っているようだ。
この規制強化は労働市場を不安定にする副作用がある。工場側にとって派遣社員は直接雇用の期間工を雇うのに比べ社会保険手続きなどを派遣会社に任せられる利点がある。働く側からみると派遣制度がないのと比べ雇われやすい。また、すぐに仕事に就けるなどの理由で自ら派遣での就労を希望する人も増えている。そうしたことを考えると多様な雇用形態を残しておくのが望ましい。
日雇い派遣を原則禁止するために政府が国会に出し継続審議になった法改正案も問題が多い。派遣失業者にとって、今のようなときこそ1日単位で仕事を見付けられる日雇い派遣はありがたいものではないか。
規制強化に走るのは賢いやり方ではない。国が真っ先に取り組むべきなのは、財政資金や雇用保険に積み立てたお金をうまく使い、緊急避難的に仕事を提供したり失業者が次の職場を遅滞なく見付けられるよう職業訓練をしたりすることだ。
政府・与党は昨年末、3年間で総額2兆円規模の雇用対策を決めた。その裏付けとなる今年度の第2次補正予算案などを早く成立させなければならない。情勢を冷静に見極め必要なら追加対策も検討すべきだ。
即効性が高いのは公共事業の前倒し執行だ。1990年代に失業対策事業として公共投資を大盤振る舞いしたのと違い、今は使えるお金が限られる。各地域の経済活性化につながる道路の整備などを厳選して事業化を急いでほしい。首都圏では羽田、成田空港への時間距離の短縮に役立つ交通網などが対象になる。
厚労省は雇用保険の加入条件を、雇用見込み1年以上から半年以上に広げる法改正案を準備している。これも早く成立、施行させる必要があるが、非正規社員の安全網をより強固にするために、その条件をさらに緩和することも検討課題になろう。
慢性的な人手不足に悩む高齢者介護や保育、また農業や森林管理などの分野に製造業から人を円滑に移すために、職業訓練を充実させる必要もある。雇用保険の積立金はそのためにあるが、「私のしごと館」で悪名が高まった雇用・能力開発機構に委ねるのは効率性や効果の観点から望ましくない。訓練の場は民間が主体であるべきだ。訓練を受ける人に直接、補助を出すバウチャー(利用券)制度も導入してほしい。
ワークシェアも選択肢
1人あたりの労働時間を縮めて仕事を分け合うワークシェアリングができる環境を政労使が整えることも課題だ。企業・業種によっては有効な選択肢になる。正規社員の待遇が悪くなっても、非正規社員を含めた雇用維持のためにはやむを得ない。
中長期対策の柱は、流動性が高い真の労働市場を育てることだ。職業訓練の充実や学校教育の改革によって誰もが手に職を持つようになれば、一時的に仕事からあぶれても苦労せずに次の仕事に就く機会が広がる。そうした基盤を整えることで、望まないのに生涯を非正規社員として過ごす人を減らせるはずだ。
雇用の流動性を高めるには正規、非正規社員の間の均等待遇の確立が求められる。企業が社員をどれだけ解雇しにくいかを経済協力開発機構が指数化したところ、日本は正規社員が手厚く守られている半面、非正規社員の保護の度合いは著しく低いという結果が出た。同一労働・同一賃金の原則とともに、この格差緩和も考えなければならない。どちらかといえば正規社員の既得権維持に熱心な連合に意識改革を望みたい。