政府が「骨太の方針06」で公約した「11年度に国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化」を先送りする。今月半ばに閣議決定する「経済財政の中長期方針と10年展望」では、「目標の達成は困難になりつつある」との表現にする。このところ税収が急速に落ち込んでいることに加え、増税のめども立っていないためだ。
世界同時景気後退への対応として、財政支出を拡大することがやむを得ない以上、財政赤字増加を抑えることは不可能だ。それに伴い、財政健全化目標が遅れることは避けられない。
問題は、それによる財政規律の緩みだ。09年度予算の編成過程でも、公共事業費削減の見直し要求や一般財源化される道路特定財源をあてにした新事業要求など歳出圧力が高まっていた。景気はその時よりも落ち込んでいる。しかも、国債の新規発行額が08年度予算の2次補正で30兆円を超えたことで、国債増発への心理的こだわりも薄れつつあるようにみえる。
しかし、客観的にみて日本の財政状況は先進国で最も悪化している。今回の景気悪化局面でも財政が円滑に出動することができなかった。こうした状況からの脱却が急務であることは、景気の良しあしにかかわらず変わらない。
短期的には、景気優先の経済財政運営になるにしても、財政健全化のタガが外れない措置は取っておかなければならない。与謝野馨経済財政担当相は、経済が正常な状況に戻らなければ説得力のある目標の策定はできないとの理由から、現行の歳出歳入改革を「ぼろ旗だが掲げ続ける」と述べている。
それで国民は安心するだろうか。持続可能な社会保障構築のための「中期プログラム」には経済状況好転との条件付きだが、11年度からの消費税上げを含む抜本税制改正が盛り込まれた。歳出、歳入両面からの工程表が示されなければむしろ不安は高まる。
「10年展望」でも歳出歳入改革や成長政策には言及しているが、従来路線の踏襲で通り一遍だ。めりはりある予算配分というのならば、一律削減のシーリング(概算要求基準)路線の抜本的見直しは欠かせない。この問題に関しては、予算そのものの抜本的な組み替えを唱えている民主党は、その具体的内容を国民に提示し、与党との比較を可能にすべきだ。
09年度政府予算案で見る限り、88兆円の一般会計歳出のうち46兆円しか税収で手当てできない。国債発行は33兆円と歳入の4割近い。これでは租税国家といえない。
国民が安心を取り戻すためにも財政は適正な社会サービスを供給できなければならない。そのためには、財政健全化実現に向けた現実を踏まえた新目標設定が欠かせない。難問だろうが、策定を急ぐべきだ。
毎日新聞 2009年1月8日 東京朝刊