奥野勝利さん(右)と加藤りつこさん=11月22日、兵庫県西宮市
コンサートで集まった人を前に思いを語る加藤りつこさん(中央)と奥野勝利さん(手前)=11月22日、兵庫県西宮市
加藤貴光さん
そんな折の07年1月、インターネット上のブログで手紙の文面を知った。貴光さんの友人が書き込んでいた。母への感謝を切々と表した内容に奥野さんは感動し、一晩で約4分の曲をつけて歌い、自分のホームページ(HP)で配信した。07年11月、りつこさんは偶然、奥野さんのHPを見つけた。亡き息子の手紙の言葉が歌声に乗って流れた。
「素晴らしい曲を、どうもありがとう」。りつこさんはすぐに奥野さんに電子メールを送った。「勝手に曲をつけてすみません。手紙から力をもらいました」と返信があった。その後もメールのやりとりが続いた。
奥野さんは昨年1月、広島市のりつこさん宅を訪ねた。滞在は約2週間に及び、初めて2人で同市の小さな集会所でコンサートを開いた。その後も、兵庫県の小中学校を中心に2人で公演を重ねている。「人は温かい思いに生かされているということを、たくさんの人に伝えたい」と奥野さんは言う。
りつこさんは「がれきに埋まっていた私の心が、ようやく動きだした。貴光の死を無駄にしないために、私は生きたい」と話している。(渡辺芳枝)
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■加藤貴光さんの手紙■
親愛なる母上様
あなたが私に生命を与えてくださってから、早いものでもう20年になります。あなたの優しく、温かく、大きく、そして強い愛を感じなかったことはありません。
私はあなたから多くの羽根をいただいてきました。人を愛すること、自分を戒めること、人に愛されること……。
これからの私は、行き先も明確でなく、とても苦しい“旅”をすることになるでしょう。しかし私は、精いっぱいやってみるつもりです。力の続く限り翔(と)び続けます。
住む所は遠く離れていても、心は互いのもとにあるのです。決してあなたはひとりではないのですから……。
あなたを母にしてくださった神様に感謝の意をこめて。(抜粋)