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多角的に「ストレス」を科学する

生まれた子供に嫉妬する夫たち

カウンセリングから見えてくるストレスと暴力--信田さよ子氏(前編)

 ところがカウンセリングに来ても、週に一度お酒を止めても、息子は学校へ行かない。カウンセリングの効果などないと思い、夫は「もう行かない」と妻に言った。その途端、暴力が激しい頃は出なかったのに、妻に初めてパニック発作が起きた。そこで私は彼女に戦略的に入院してもらうことにしました。

 入院先から携帯メールで「あなたがいままで私にやってきたことはDVだと思います。いまも恐い。それを目撃してきたことが息子に影響しているかもしれない。だからDV加害者のプログラムに出てください」といった内容を彼女は数回にわけて夫に送りました。

−−夫はどういう反応をしたのでしょうか?

信田:「俺はこんなに懸命に働き、息子ふたりを私立の学校で学ばせ、妻も専業主婦で好きにさせ、ヴィトンのバッグも買ってやった。それなのに俺をDV加害者だと言うのか」と怒ったので、彼女は「ますます病気が悪くなりました。しばらく退院できません」と告げ、本当に半年入院しました。

 「あなたが自分の行動を変えようとしない限り、恐くて家に帰れません」という妻の言葉もあって、彼は加害者プログラムに渋々出てきた。

 参加しながら彼は嫌な顔をしていましたが、そういう人ほど着実に変わっていきます。ああいう場で、「僕は妻に悪いことをしました」と流暢に反省の弁を述べる人ほど変わらない。

 それまで彼は妻に命令口調だったし、息子にも「学費を払ってもらってなぜ行かない」と責めていましたが、一切そういうことを言わなくなりました。

 昔は、「風呂!」とだけ言っていたのに、「先に入っていいですか」と言うようになった。そういう態度が定着していくのと並行して、不思議なことに息子は復学し、無事就職しました。現在、妻は夫の飲酒や言動に多少不安を持ちながらも、平穏に暮らしています。

(後編に続く)

(文/尹雄大、写真/風間仁一郎、企画・編集/漆原次郎&連結社)

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このコラムについて

多角的に「ストレス」を科学する

医学や心理学以外の視点から、「ストレスとは何か」を考えるインタビューコ ラム。「失敗学」「テクノストレス」「宇宙環境」など、さまざまな分野が専門 の研究者に、それぞれの立場からストレスを語る。多角的な見方からストレスの 本質が見えてくる。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)

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