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多角的に「ストレス」を科学する

生まれた子供に嫉妬する夫たち

カウンセリングから見えてくるストレスと暴力--信田さよ子氏(前編)

−−なるほど。夫にとっての愛情とは、妻をコントロールすることなのですね。

信田:DVの加害者は、結婚してだいたい3か月後から暴力を振るい始め、家庭が暴力と支配の場になります。実際に暴力を振るわないまでも、多くの場合、結婚は男性を変えます。妻をめとる。あるいは父親となることで権力が倍増する感覚を身に付けるからです。

−−「家庭を持ったことで責任感が出てきた」という評価もされますね。

信田:確かに表から見れば「責任感が出てきた」とように見えます。でも、裏から見るとこの変化は「父権的、マッチョになった」ということです。

 これまでの経験で言えば、男性には、「殴る男」と「殴らない男」の二種類しかいません。外見で両者は判断できません。会社では、やさしくて評判がよくても、家庭ではまったく違う態度をとっている。見事に使い分けている例がたくさんあります。

 外では社会正義を訴えているような男性が、家では暴力を振るっている。カウンセリングには、そういう“表向きの顔はいい夫”から「僕の妻なんだから、言わなくてもわかるはずなのに、なぜわからない」という理由でことばや身体による暴力を受けた妻たちが多く来ているのです。

オーバーラップする「支配」と「愛情」

−−恋愛を経て結婚するのは人生の自然な流れと多くの人は思っているでしょう。ただ、DVの事例は、その流れがいつの間にか所有と支配の関係に転化していることを示しているのですね。

信田:「所有や支配」と「愛」の境目はほぼ重なっていて見えにくいものです。だから、「所有や支配になってはいないだろうか」という、絶えざる意識が必要なのです。愛や親密さがたやすく暴力に転換するのは、近代の家族がそもそも孕んでいる、必然的な構造ではないかと考えています。

−−確かに近代化の過程で、企業で夫が働き収入を得、妻が家事を担うといった、生産と再生産の分業を行うスタイルが標準的な家族として設定されました。

信田:ええ。つまり、経済力に勝る夫ならば妻に対しては“権力者”として、子に対しては“支配者”として振舞いかねない構造になってしまったということです。

 普通の車でも200キロ近く出せるパワーがありますが、家庭もそういうものです。支配者になってしまうという自らの持てる力を自覚しておかないと暴走しかねない。

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このコラムについて

多角的に「ストレス」を科学する

医学や心理学以外の視点から、「ストレスとは何か」を考えるインタビューコ ラム。「失敗学」「テクノストレス」「宇宙環境」など、さまざまな分野が専門 の研究者に、それぞれの立場からストレスを語る。多角的な見方からストレスの 本質が見えてくる。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)

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