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東京・日比谷公園の「年越し派遣村」に社会的な関心が集まったことなどを受け、派遣労働の見直しが政治の焦点に浮上してきた。舛添厚生労働相は5日の記者会見で、製造業への派遣を規制すべきだとの考えを表明。民主党も独自の労働者派遣法改正案をまとめる方向で調整に入った。ただ、製造業派遣の禁止には政府・与党内や経済界に反対論が強い。
政府は日雇い派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案をすでに国会に提出している。しかし、舛添氏は5日の会見で「各党の意見も頂いて、もっといい形で修正できれば、柔軟に修正すればいい」と見直しに前向きな姿勢を示した。特に製造業派遣について、「個人的」と断りながらも、「製造業まで派遣労働を適用するのはいかがなものか。国際競争を勝ち抜くため、しわ寄せが低賃金や派遣労働に行っていいのか」と踏み込んだ。
民主党も製造業派遣規制に踏み込む。同党は労働組合を支持基盤とするだけに、これまでは「さらなる失業を招きかねない」と消極的だったが、予想を超える雇用情勢の悪化で方針転換を迫られた。共産、社民、国民新各党はかねて製造業派遣原則禁止を掲げており、小沢代表は4日、「4野党でしっかりまとめないといけない」と党幹部に指示。野党共闘を優先し、法改正の検討に入ることになった。
民主党政調幹部は「製造業で派遣切りが相次いでいることは事実。年度末の決算期に向けてさらに派遣が厳しい状況になるのは間違いない。そのままというわけにはいかない」と明言。派遣労働者への雇用保険適用などセーフティーネット強化策とあわせて検討する。菅直人代表代行は5日、「派遣村」の参加者らと国会内で開いた緊急集会で「まさに人災。大きな責任が野党を含む政治にある」と強調した。
米国発の金融危機がもたらした世界的な景気後退のなか、雇用対策自体は昨年秋から与野党を超えた政治の焦点ではあった。しかし、「派遣切り」などで仕事と住まいを失った約500人が「派遣村」に入村登録するなど、問題の深刻化に伴って派遣労働見直しが政治課題の前面に浮上した。特に、04年に解禁され、今回の急激な雇用情勢悪化の一因とされる製造業派遣の見直しが焦点となる。
舛添氏は5日夕の連合の新年交歓会でも「私は『製造業への派遣はいかがなものか』とずっと申し上げている。労使の意見をよく聴いて、みんなが納得いく働き方改革を実現したい」と意欲を示した。
ただ、舛添氏が事前に政府内に根回しをして発言した形跡はない。麻生首相は5日夜、記者団に「まずは(国会に)出された法案を通すことが大事だ」と述べ、労働者派遣法改正案の修正には慎重だ。河村官房長官も会見で「法案は現行でいく。あえて修正するのはなかなか難しい」と語った。
首相らの慎重姿勢の背景には、派遣規制を強化すれば直接雇用を求められる企業が採用を手控え、かえって失業者の増加につながりかねないことや、日本の製造業の国際競争力が低下することなどへの懸念があるとみられる。