日中両政府が、継続協議で合意していた東シナ海の天然ガス田「樫」(中国名・天外天)について、中国側が単独開発を続けていることが判明した。日本政府は「合意違反」と抗議している。当然であり、中国は即時停止すべきだ。
東シナ海の天然ガス田問題は、日本が主張する東シナ海の排他的経済水域(EEZ)の境界線(日中中間線)付近で、中国のガス田開発が発覚し、問題が顕在化した。当時の小泉政権は日中中間線に近接していることから「日本資源も吸い取られる」と抗議した。
中国側は境界線を日中中間線よりもはるかに日本に近い「沖縄トラフ」とすべきだと反論し、ガス田周辺海域に中国海軍の艦船を派遣する示威行動も展開するなど強硬で、日中両政府の対立は深まった。
両政府の軟化は福田政権発足後だ。福田康夫首相と中国の胡錦濤国家主席との首脳会談で、両首脳は共同文書「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」に署名し、未来志向の日中関係を確認した。首脳会談の成果を受け、両国政府は昨年六月、EEZの境界画定問題は棚上げするという妥協のうえで、日中中間線をまたぐ形で北部のガス田「翌檜」(中国名・龍井)の周辺海域は共同で開発し、中国が開発を進めている「白樺」(中国名・春暁)は日本企業が出資するとの合意にこぎ着けた。残りのガス田周辺海域は継続協議とした。
今回判明した中国側の単独開発ガス田「樫」について中国外務省は「天外天が中国の海域であることは争いがなく、ガス田開発の作業を行うのは固有の権利の行使だ」とのコメントを発表した。中曽根弘文外相は、樫開発は「継続協議で白紙との認識だ」と強い不快感を示す。日中関係は、再びぎくしゃくしだした。
日中両国は、戦略的な互恵関係をなんとしても進展させたい。昨年十二月には麻生太郎首相と中国の温家宝首相、韓国の李明博大統領による日中韓首脳会談が福岡県で開かれ、連携強化を確認した。世界的な金融危機への対応や北朝鮮の非核化実現に向け、互いの協力が欠かせないだけに、対立の火種を消す日中双方の真摯(しんし)な努力が大切になろう。
日本と中国の懸案を話し合う次官級の戦略対話が九日に都内で開かれ、ガス田問題も取り上げられる予定だ。日本はあらためて抗議するとともに、共同開発へ導く説得が重要だ。
京都大の山中伸弥教授が開発した新型万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」をめぐり、ドイツの医薬品企業が、人の細胞からの作製に複数の方法で成功したとして、二〇〇七年六月に日本で特許出願していたことが分かった。
独企業の出願は山中教授が人での作製成功を発表した〇七年十一月より早く、教授と異なる作製法も含まれる。教授の成果に基づき京大は作製法の根幹部分について国内特許を既に取得しているが、手法が異なれば特許として成立し得るという。
iPS細胞は皮膚などの細胞に遺伝子操作を加えてつくられる。受精卵を材料にする胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と違って生命倫理上の問題がなく、自身の細胞を使うため拒絶反応も起きない。傷んだ臓器などを修復する再生医療や難病治療に道を開くと期待を集めている。だが、特許をめぐって権利関係が複雑化すれば高額の使用料が必要になるなど、実用段階に向けて支障が出てくる恐れがある。
独企業の特許問題の成り行きは定かでなく、競争相手は他にも多い。特許問題は今後、一層の複雑化が予想される。
山中教授は「競争が注目されがちだが患者に役立つことが最大の目標」と語っている。大切にすべきは、この点だろう。教授は海外との共同研究検討を明らかにした席で、難病の娘を持つ親からiPS細胞のおかげで「病気が治せるかもしれないと娘に初めて話せた」と激励されたと話し、目頭を押さえた。
研究を進める人たち、特に企業にとって特許は大きな意味を持つ。しかし、一方で救いを求める人が多数いるのも事実だ。関係する研究者や企業、さらに各国政府などに、夢の医療の早く確実な実現へハードルを取り除く努力が望まれる。
(2009年1月7日掲載)