シャモ(軍鶏)。字が示す通り、昔は闘鶏用の鶏だったが、現代は食通に好まれる高級食材にもなっている。地域を挙げて飼育に力を入れる青森県の「青森シャモロック」と福島県の「川俣シャモ」の関係者にそれぞれの味自慢をしてもらった。【西嶋正法、喜浦遊】
◆青森
青森シャモロックのキャッチフレーズは「味良し、ダシ良し、歯ごたえ良し」。自慢できる鶏です。
肉の味が濃く、塩もコショウもつけないで、そのまま食べておいしい。脂が乗り、適度に甘みがあります。青森らしい物を餌に入れたいと考え、ホタテの貝殻の粉末やリンゴジュースの搾りかすなど、いろいろ試しました。その結果、効果があったのが県特産のニンニク。粉末を餌に入れることで、ビタミンB1やグルタミン酸、イノシン酸といったうまみ成分が高くなりました。
シャモロックという名前の通り、父親にシャモを使っています。けんかをする鶏なので、やっぱり筋肉質です。味は良いが、長く飼っていると硬くなってしまいます。だから青森シャモロックの飼育は100~120日間としています。ほかの地鶏で150日も飼っているところもあるようですが、だしとしては良くても、肉は硬くてとても食べられません。もみ殻を敷いた鶏舎の広場で自由に運動させて育てているので、肉の締まりのよさも失っていません。
今、「日本全国地鶏だらけ」というくらい、たくさんの種類があります。青森県が飼育法をマニュアルにし、ブランド化に本腰を入れたのはここ5年ほどですから、青森シャモロックの名前は全国ではあまり知られていません。そんな中、宮内庁の御用達になっているのは一番の自慢です。全国に数ある地鶏の中で、唯一ですから。他に名前の知れた地鶏があるのに選ばれたのは、やっぱり味の良さなんでしょう。
青森シャモロックの名前は県内では定着してきましたが、まだ「食べたことがない」という人もたくさんいます。まずは地元の人に愛してもらい、さらに県外へ広めていきたいと思います。
「横斑(おうはん)シャモ」と「速羽性(そくうせい)横斑プリマスロック」を掛け合わせ、県が20年間の研究の末、90年に完成させた地鶏。07年度のヒナの供給羽数は7万3000羽。01年から宮内庁の御料牧場にヒナを出荷している。
◆福島
軟らかすぎず硬すぎず、ほど良い歯応えとプリプリ感が川俣シャモの最大の特徴です。食した人が必ず「味が濃く、ほかの地鶏にはないジューシーなうまみがある」と言ってくださるのがうれしいですね。
川俣町は昔から闘鶏が盛んで、シャモを飼っている人が多くいました。町おこしに「シャモを生かさない手はない」と思ったんです。でも、町農業振興公社を設立した87年当初は全く売れませんでした。肉が硬く、焼き鳥に向かないのが原因でした。
そこで県の養鶏試験場と協力し、2年をかけて98年に開発したのが「焼きにも強い」現在の川俣シャモです。
餌にも工夫を凝らしています。トウモロコシや植物の種子、魚粉、海草などを独自の配分で混ぜ合わせた専用飼料を使っています。抗生物質は一切入れていません。
ポイントは、悪玉菌の活動を抑えるEM菌(有用微生物群)を微量混ぜる点です。EM菌を取り入れてから、シャモの目が以前に増して生き生きしてきたように感じます。開放鶏舎で、天気の良い日は原則放し飼いにもしているため、のびのびと健康に育っています。
出荷先は北海道から京都まで幅広く、最近ではフランス大使館(東京都港区)やミシュランに出てくる有名レストランでも扱ってくれるなど、徐々に知名度が上がってきています。売り上げは年間2億円を超えており、町に欠かせない産業の一つになりました。でも、まだ満足していません。生産量をあと2万羽増やすのが目下の目標です。
私たちは、一級品質のシャモ肉を作っているという自負と自信があります。「新参」の産地に負けるわけにはいきません。もっともっと川俣シャモを全国にPRしていきたいと思っています。
闘鶏用に飼育されてきた純系シャモに肉質の優れた「レッドコーニッシュ」を掛け合わせて誕生した雄に、米国産「ロードアイランドレッド」を交配させて完成した。福島県のブランド品に指定。生産量は年間6万羽。
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■人物略歴
家業の建築会社勤務を経て、33歳で青森シャモロックの飼育・加工会社を設立。今年度は約4万羽を飼育している。卵を使ったプリン製造も始めた。
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■人物略歴
36歳の時、特産の川俣シャモを生産・販売する川俣町農業振興公社の設立にかかわる。「世界一長い」焼き鳥を競うイベントにも取り組んでいる。
毎日新聞 2008年12月26日 地方版